パナソニックが、子ども達への「学び支援活動」を続ける理由
「自分の人生を自分でデザインできる」
――そうした力を一人でも多くの子ども達へ
2018年3月4日、「日本コンテスト2017」の表彰式がパナソニックセンター東京(有明)で開催された。子ども達は、“5分間”の映像にいったいどんな思いを込めたのか──。表彰式の模様をレポートする。そして後半、パナソニックが「学び支援活動」に力を注ぐ理由や思いについて担当責任者へインタビューを行った。
印象的だった子ども達の笑顔や誇らしげな表情
KWNはもともと、1989年にパナソニックがアメリカでスタート。その後世界各国に広がり、日本では2003年から実施されている。映像制作活動を通じて、創造性やコミュニケーション能力、チームワークなどを育むのが目的だ。
15周年を迎えた「KWN日本コンテスト2017」に全国から寄せられた作品は、小学生部門18作品、中学生・高校生部門57作品の合計75作品。表彰式では、それぞれの部門の入賞作品各4作品が上映され、最優秀作品などの発表が行われた。
詳細は、「KWN日本コンテスト 2017 スペシャルサイト」で紹介されているが、表彰式で何より印象的だったのは、受賞を喜ぶ子ども達の素直な笑顔や誇らしげな表情だ。自分達でゼロからつくり上げた作品が他者から評価された経験は、きっと確かな自信となり、これからの支えにもなるだろう。
会場で上映された入賞作品には、審査員から例えば次のような講評が寄せられた。「キャラクターと実写の合成などプロのようなテクニック。作品を通して世界とつながろうという思いが伝わってきた」「たった5分間の映像で、見る人が忘れられないインパクトを与えた」「日々の暮らしのやるせなさをセリフなしで伝えたすばらしい作品」──。
いずれも甲乙つけがたい力作の中で最優秀賞に選ばれたのが以下の2作品。それぞれ、受賞した児童、生徒の声を紹介する。
●小学生部門「感情」 熊本県 荒尾市立桜山小学校
感情というのは人や自然、ものとのかかわりの中で生まれてくる、というのが作品のテーマです。また熊本地震を経験して、これまで当たり前だと感じていたことが当たり前ではなかったことに気づき、そのことも伝えたいと思いました。映像を通して自分達の「感情」が届くように、ナレーションも何度もやり直しました。
●中学生・高校生部門「久しぶり、元気だった?私は……」 埼玉県 県立小川高等学校
嫌われることを怖がって、人に合わせて行動する──。今の女子高生には、きっとそんな人も多いはず。「でも本当にそれでいいの?」と問いかけたくてこの作品をつくりました。制作には、出演者や撮影者だけではなく、片付けをする人なども必要。作品づくりを通じて、チームワークの大切さも実感しました。
学校の普段の授業とは異なる体験の中で、さまざまな気づきを得られるのがKWNの魅力に違いない。実はパナソニックでは、このほかにも多様な「学びへの支援」活動を行っている。その理由はどこにあるのか──。答えてくれたのは、同社ブランドコミュニケーション本部CSR・社会文化部 部長の福田里香氏だ。
自分で答えを導き出すことが重要
子ども達が自由な発想で映像制作を行うKWNのほか、パナソニックは「オリンピックとパラリンピックを題材とした教育プログラム」や「私の行き方発見プログラム」などを学校現場に提供している。それぞれ、多様な職業、職種に焦点をあてたキャリア教育プログラムで、アクティブ・ラーニングのための教材や出前授業などを用意している。
──パナソニックが多様な「学びへの支援」活動を行う背景には、どんな考えや目的があるのでしょうか。
福田 当社はもともと、「ものをつくる前に、人をつくる会社」という理念を持っています。松下幸之助創業者が、「当社が何をつくるところか、と尋ねられたならば、人をつくるところでございます、あわせて商品もつくっております」と発言しており、人づくりは私達の原点なのです。
加えて、「事業活動とともに、企業市民活動を通じて社会課題の解決を目指す」というのも私達の基本的な考え。現在、重点テーマとして「共生社会の実現に向けた貧困の解消」を掲げ、ここでも“人材育成”を柱の一つに据えています。子ども達の学びへの支援も、その一環です。
──活動を通じて、子ども達にどんな力を付けてもらいたいと考えていますか。
福田 一言でいえば、自分の頭で考え、やり抜く力です。大人でもそうですが、今の時代は何か課題があると、答えを“探し”にいってしまう。すでにある情報の中から答えを見つけて、それをあてはめようとするわけです。
そうではなくて、自分自身で、また仲間達と解決策を考えて、うまくいかなければやり直す。そうした力を付けてもらえればと思っています。
──“答えを探しにいってしまう”ことの弊害は、どんなところにあると思いますか。
福田 一番は、新しいものが生まれにくくなること。すでにあるものを探しているわけですから当然ですね。自分で考えたものには、何かしらオリジナリティが含まれています。仮に似たようなものがあったとしても、完全に同じではない。これは大きな違いです。
また、もし答えが間違っていたときに、それが自分で考えたものでなければ、人のせいにしてしまうこともあるでしょう。自分自身で導き出した答えであれば、間違いがあったと思ったときに、何が悪かったのか、どこに原因があるのかを自分で再度追求できます。人が用意したものではそれができません。
「新しい学習指導要領等が目指す姿」という文部科学省の資料を見ると、そこには「理想を実現しようと高い志や意欲を持って」「何が重要かを主体的に判断できる」「新たな価値を創造していくとともに、新たな問題の発見・解決につなげる」といった言葉があります。これらは、まさにパナソニックをはじめとする企業が求める人材像と重なっています。私達も創業から100年、社内でさまざまな人材育成を行ってきていますから、子ども達の教育でも何かお手伝いできることがあるはずだ。そう考えています。
──パナソニックが提供するプログラムに取り組んだ子ども達の変化や能力などを実感したことはありますか。
福田 KWNの制作現場などに足を運ぶと、初めは周りを気にしてあまり発言しなかった子ども達が、きちんと自分の意見を言えるようになっていきます。今年初めて対象に拡げた都立立川ろう学校に一度見学に行きました。その日は「何をどうしたらいいのか」と本当に苦労していたんですが、最終的には「connect」という素晴らしい作品をつくり上げてくれました。担当の先生に聞くと、制作過程では「ああでもない、こうでもない」と生徒達の間で相当な議論があったそうです。
その他の作品も含め、審査に携わる中でいつも感じるのは、子ども達の発想力や想像力の豊かさ、すばらしさです。まさに若いうちだからこそ、と感じるものも多く、その意味では小学生や中高生のときに適切な刺激を受けることの重要性を感じます。
自分が進む“道”を見いだし、切り開けるように
──そのほかの「学びへの支援」である「オリンピックとパラリンピックを題材とした教育プログラム」「私の行き方発見プログラム」(いずれも中学生、高校生対象)について教えてください。
福田 当社は、30年にわたってオリンピックのワールドワイドパートナーとして、また2014年度からパラリンピックも同様に大会をサポートしてきました。その実績や裏方として培ってきた技術、ノウハウを生かしたキャリアプログラムを提供しています。現在ある4つの教材のうち「大会の意義とそれを支える人々」では、オリンピックやパラリンピックが、いかに多くの人達の支えのもとで成り立っているかに気づいてもらうことがテーマです。記録の計測係もいれば、バスの運転手さんもいるし、食堂で働く人もいる。そして当社のようにテクノロジーで大会をサポートする仕事もある。幸い私達の手元には、多種多様な現場映像がありますから、それらを教材として活用できます。
一方、「私の行き方発見プログラム」は、会社というものが単に利潤を追求するだけでなく、社会の中でさまざまな役割を担っていることを伝え、生徒達に働く意義や自分らしい“行き方”を考えるきっかけを持ってもらうためのプログラムです。教材の提供とあわせて、今後は当社の社員が出前授業という形で、仕事の実体験などをお話しすることにも力を入れていこうと考えています。
──子ども達にキャリア教育を提供する意義は、どんなところにあると思いますか。
福田 職種や職業にはさまざまな選択肢があると知ることは、特に若い世代にとって大きな意味があると思っています。プログラムで使っている“行き方”は松下幸之助創業者が使った言葉ですが、私はこの言葉から人生の“道”を連想します。誰もが知る大通りもあれば、細い道もある。その中でどの道を歩むかは自分自身が決めることですし、行き止まりだったら戻って別の道を行けばいいと思うのです。ただ、道をしっかりと見いだし、切り開ける力を持っていないと、自分の進みたい方向に進むことができません。私達は、道そのものを提示するのではなく、道の見いだし方を伝えたいと考えています。
──最後に、パナソニックの「学び支援活動」の今後の抱負について聞かせてください。
福田 初めに少しお話ししたとおり、当社は企業市民活動のテーマとして「共生社会の実現に向けた貧困の解消」を掲げ、それには「機会創出」「相互理解」と並んで「人材育成」が欠かせないと認識しています。もちろん一朝一夕に成果が出るものではありまんから、何より“継続”を大切に、地道に取り組みを進めていく考えです。活動内容自体は、社会や時代の変化に応じて変わっていく部分もあるでしょう。
ただ、“自分の人生を自分でデザインできる力”を身に付けてもらいたい。これだけは、私達の活動の根本にある考えであり、変わらない思いです。誰もが、自分がやりたいと思ったことに思い切りチャレンジできる。微力ながら、そんな社会をつくるお手伝いができればと思っています。
■お問い合わせ先
パナソニック株式会社
http://www.panasonic.com/jp/corporate/kwn.html