基本の(き):木綿

 

別冊『きものおたすけ辞典』より 基本の(き):木綿 

暮らしの中で親しまれてきたほっこりとした存在感。

自分で洗える気楽さも◎

 

 

ザ・デーリーウエアの木綿。「金屏風(びょうぶ)に高砂(たかさご)」の格式ある結婚式には逆立ちしたって着ていけないことは、想像がつく。でも、デーリーと金屏風の間はどうなのか? 知りたいのは、木綿の限界地点はどのへんなのかってこと。 和文化プロデューサーの森荷葉(かよう)さんは、「今はデニムにシルクのブラウスやパンプスを合わせることだってあるでしょ? 木綿を“ご近所着”に限定することはないと思います」とのご意見。「木綿は懐の深い着物」というフリー編集者の田中敦子さんも、「手入れが楽で長いシーズン着られ、合わせられる帯も幅広い。コーディネート次第で、着物の奥行きを表現できるんじゃないかしら」と、木綿の可能性に肯定的だ。 ただし、ちょっと気の張る場所へ着てゆくなら、〝あえての木綿のおしゃれ”に見える説得力がほしいところ。ついては、合わせる帯やTPOに関して、木綿の色柄や雰囲気ごとに考えてみたい。
歌舞伎観劇=◎
劇場や演目をイメージして
〝あえて木綿.なら

歌舞伎見物に木綿なんて邪道? いえいえ、劇場の雰囲気や演目の内容を考えて、〝あえて木綿”ならアリ。たとえば演目が市井の暮らしを描いた世話物なら、藍縞の木綿に江戸の風物詩の帯としゃれこめば、それこそ芝居通&着物通。
居酒屋=◎
少々の汚れもへっちゃら。
ワイワイにぎやかな場にぴったり

ざっくばらんな雰囲気の居酒屋やバルには、木綿はもってこいの着物。絹ものじゃ食べこぼしが心配だったりして気が抜けないけれど、洗える木綿なら少々の汚れもへっちゃら。気兼ねせず楽しく飲み食いできるというもの。気がゆるんでの飲みすぎにはご注意を。
高級レストラン=△
きらびやかな照明の下では
くすんで寂しいかも

シャンデリアや銀食器がきらめく場所では、光を吸収する木綿はみすぼらしく見えてしまいがち。帯や小物にそれなりの工夫が欲しい。たとえばヨーロッパの手仕事っぽい帯を合わせ、ワンピース感覚で木綿を着てフレンチのランチへ、というならおしゃれに見えそう。
美術館、ギャラリー=◯
洋画やクラフトなど
作品によってはぴったり

ドレスコードがあるわけじゃなし、訪れる人たちのファッションもバラバラな場所。木綿だからといって問題はない。しいていえば、日本の古典的な工芸美術作品より、現代美術や洋画、雑貨といった和の王道と離れた作品のほうがすんなりなじむかも。

 

 

 

 

 

教える人*森荷葉(和文化プロデューサー)、

田中敦子(工芸ライター)

文*中尾千穂

撮影*唐澤光也(パイルドライバー)

イラスト*太田垣晴子

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