染め織りペディア24

「首里織」の小さな窓

 沖縄には、琉球(りゅうきゅう)王国の王族や士族を彩った高貴な衣裳をルーツとする染織品がある。型染めの「紅型(びんがた)」と、もうひとつは「首里織」。今も手仕事で染め織られ、その美は着物や帯として受け継がれている、のではあるけれど……。

「着物って遠い存在ですよね」とは、空間デザインやプロダクトデザインを手がける「Luft」の真喜志奈美さんと桶田千夏子さん。沖縄出身の真喜志さんは、東京ともうひとつ、故郷の沖縄に拠点を持ったことをきっかけに、島の工芸と関わってきた。2013年に立ち上げたのは「四角い布」プロジェクト。「着物を着ない私たちも使える織物、いつもポケットにあって触れられる特別な布を」と考えた。四角いヌヌ、と、まろやかなウチナーグチ(沖縄語)で呼ぶそれは、老若男女、国を越え、誰もが使えるハンカチーフ。そして、このプロジェクトを支えるのが、上間ゆかりさん、金良(きんら) 勝代さん、新垣(しんがき)斉子(ときこ)さん。彼女たちは、高い技術をもつ首里織の織り手だ。

 首里織は琉球王国にゆかりある織物技法の総称で、技法は何種類にもわたっている。たとえば、刺繍のように糸を浮かせて花めいた幾何学文様を織り上げる首里花織、花織と透かし目を市松に組み合わせた花倉織、立体感ある縞しま柄の道屯(ロートン)織、ヨコ糸の絣(かすり)糸をずらしながら身近にある自然や道具を記号のように描く手結い絣など。何種かの技法を組み合わせる凝ったものも。王国時代は、王族や士族の子女が家庭で織ったという。

20世紀半ば、沖縄は戦争により焦土と化し、壊滅状態になったけれど、使命感ある人々の尽力で多くの工芸が見事に復活。首里織は今、100人近い織り手により継承されている。

「Luft」の2人は信頼する首里織の3人に「四角い布」への思いを伝え、「手織り、地元の植物染め」であることをお願いした。実用のハンカチには、花織など凹凸がある技法は使えない。フラットな平織りの手結い絣が主になる。それでもなお、彼女たちの布には首里織が凝縮している。一枚一枚デザインが異なり、遊び心があり、沖縄の色が息づいている。

 慣れた絹糸ではなく、しなやかな手触りのために海島綿に匹敵する細いスーピマコットンを使うので、楽な作業ではない。でも、「帯や着物では織り上がるまで全体像を見ることができないけれど、ハンカチサイズは機の上で仕上がりを見られて楽しいんです」と3人は微笑む。

「このプロジェクトが、首里織を伝える小さな窓になったなら」と、そんな思いで続けて10 年。5人はそれぞれポケットから四角いヌヌを取り出して、その経年変化を見せてくれた。使うほどに風合いが増し、色が落ち着き、温かい。昨年手に入れた私のヌヌもこう変わるのか、と頰が緩む。この贅沢(ぜいたく)な楽しみを織り手のひとり、新垣さんが沖縄の褒め言葉「ジョートー(上等)」を使い、表現してくれた。「普通のジョートーね」と。

文=田中敦子 イラスト=なかむらるみ

たなか・あつこ手仕事の分野で書き手、伝え手として活動。工芸展のプロデュースも。この1月に右足を骨折。その名も「下駄(げた)履き骨折」。下駄を履いたまま(私はサンダル)足をひねる人が昔からいたゆえのネーミングにちょっと驚く。

Vol.74はこちら