染め織りペディア20

「江戸型染め」の小さなジャンプ

 江戸時代、お洒落がぐんと大衆化した。寄与したのは、量産技法の型染めである。小紋、長板中形、紅型、型更紗など、型紙独自の省略や意匠化から生まれた文様には、量産ゆえに磨かれた洗練がある。

 そんな江戸文化の申し子である型染めで伝統文様をポップに染めた小物を制作しているのが、浅草近くにある「本品堂」。ぽん・ぴん・どう、と楽しげな音感ながら、実は江戸末から続く型染めの老舗発信ブランドで、屋号は「更銈(さらけい)」。「更」とくれば型更紗だが、実は二代目は型更紗、三代目は小紋、四代目は江戸紅型と、型染めを柔軟に取り入れてきた。

「妻の実家にあった代々の型紙が『本品堂』の原点」とは代表の大野耕作さん。妻・工藤資子さんのお父上である「更銈」四代目が急逝、染め場を片付ける際に、山とあった型紙に衝撃を受けた。「見事なデザイン力と精緻なわざに、こんなすごいものが日本にあったのか、と」

 資子さんは家業を畳もうと考えていたが、関西のクリスチャン家系に育った耕作さんにとって、工藤家の江戸気質や仕事は超絶に魅力的で、「簡単にやめていいの?」と資子さんを焚きつけ、動き出す。「途中で飽きるかなと思ってました」と笑う資子さんだが、耕作さんは本気で、資子さんも、ならばと覚悟を決めた。では何ができるのか。2人が試行錯誤を重ねて行き着いたのは、普段から伝統文様に触れ、使ってもらえる品々の制作だった。例えば守袋。「昔のお守りはむき出しで、それぞれが小袋を作って身につけたのをヒントにしました。大切なものを入れていただけたら」

 千鳥、達磨 、うずらなど、染め文様にはどれも吉祥や厄除けの意味がある。

「伝統文様が持つ意味も重要で、伝えていきたい」と語る耕作さんは、家具デザイナーの経験を生かし、型染めならではの曲線を大切にした図案を考え、型紙を彫り、主に資子さんが染めていく。心を砕いたのは、型染めの味を生かしながらも日常使いの堅けん牢ろう度と価格に落とし込むこと。「染め布を使い、糊に少し染め抜き剤を混ぜることで、本来の糊防染ではなく抜染を採用しました」。こうすることで、型染めならではの線はそのままに作業を省力化できる。「『本品堂』は、和文化のエントリーラインでありたいんです」

 もうひとつの工夫は、型紙の上に紗張りの枠を置く方法。型紙に紗張りをしたいところだが専門の職人が必要な技術。その代替として発想したところ、型紙の引っ掛かりをカバーできるし、両面使いもできてしまう。目鼻など小さなパーツは、抜染後に別の型紙で刷毛染め、つまり捺染する。これは紅型の技法だ。

 コントラストが楽しく、しかも大人っぽい。これは資子さんが父から学んだ江戸紅型のセンスだ。資子さんは「更銈」五代目として帯地や着尺も手がけ、今後力を入れていきたいと考える。和の入り口を用意した上で、「更銈」の本領へと。老舗の柔軟さは今も健在なのだ。

たなか・あつこ手仕事の分野で書き手、伝え手として活躍。工芸展のプロデュースも。2022年7月7~14日に「銀座・和光」で開催される「型一会」展のお手伝い中。型の反復性に心惹(ひ)かれるのは町人DNAのなせる業だろうか。

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