染め織りペディア6

和綿の味わい

冬はほっこり、夏は汗を取り、さっぱりと水洗いできて、からりと乾き、丈夫で長持ち。木綿とは、なんとありがたい布なんだろう。大航海時代以前、羊毛しか知らなかったヨーロッパの人々は、木綿の風合いから推して、羊の実る樹木があると信じていたそうだ。

日本人もまた、長らく木綿と無縁の衣生活を送ってきた。木綿はそもそも熱帯性の植物で、インドやペルーでは紀元前から栽培されて布がつくられていたが、日本では、平安時代にほんの一瞬、木綿栽培が試されたものの根付かず、以後、木綿といえば舶来の高級品だった。しかし、中国、朝鮮と、大陸経由でじっくり時間をかけて品種改良されてきた木綿は温帯にも適応できるようになり、江戸時代にようやく本格的な栽培が始まる。幕府の贅ぜい沢たく禁止令が木綿の普及に拍車をかけるが、実は木綿の性質は働く人にとっていいこと尽くし。ビバ、木綿!

なのに、明治時代に残念な事態が起きた。生産性向上のために海外から紡績機を導入、国産の綿花で糸をつくろうとしたところ、国産木綿は繊維が短く、機械と相性が悪い。そこでやむなく、繊維の長い輸入綿花に頼ることになる。

江戸時代にようやく日本にたどり着き、庶民に福音をもたらした日本産木綿が、明治時代に入るや、あっけなく消えてしまうのだ。

「江戸時代には50 以上の木綿品種があったそうです。日本の木綿は和綿と呼ばれています」と話すのは、「十じゅっ絲しの会」の大熊眞智子さん。メンバーは他に、小峰和子さん、永井泉さん。今もひっそり和綿栽培と染め織りが受け継がれている土地で木綿仕事を学んだ3人が、和綿を主とする手紡ぎ木綿の魅力を伝えようと結成したチームだ。十絲とは、十人十色の糸がある、の思いを込めたネーミング。

「木綿は風土に寄り添う植物で、国によって性質が異なります。和綿の繊維は短くて空洞で、吸放湿性と弾力に富んでいます。アメリカ綿は空洞が扁平(へんぺい)です」

 でも、程よい繊維の長さゆえ機械製糸しやすく、用途も多彩なアメリカ綿が、今や世界中で木綿の主流に。各国の地木綿が片隅に追いやられている。「仕方ない部分もありますが、日本にも魅力的な木綿があり、手紡ぎ糸ならではの味わいを知ってほしいと、綿花から糸を紡ぐワークショップを続けています」

実際に糸にするまでの流れを見ると、木綿の優秀さに驚かされる。綿花から種を取り出し、繊維をほぐしてきりたんぽのように丸めたら、即、糸紡ぎが始まる。素直にスルスルと糸になっていく。

近年、固有種が再評価され、かつて木綿の産地だった土地で栽培や織りが復活し始めている。日頃、染織作家として活動する「十絲の会」の3人は、日々和綿を手で目で愛めでている実感を込め、和綿の伝道師でありたいと考えている。

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はみだしペディア 「十絲の会」では、糸紡ぎワークショップの参加者を受け付けています。詳しくはitokuruma@sound.ocn.ne.jp にお問い合わせください。

 

文=田中敦子 イラスト=なかむらるみ

たなか・あつこ  手仕事の分野で書き手、伝え手として活躍。著書多数、工芸展のプロデュースも。仕事の関係で漫画『博多っ子純情』34巻を読破し、博多ラブ中。作者の長谷川法世さんにもお会いできてウキウキ。作中に博多人形や博多織も登場します。

 

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