『海街diary』の綾瀬はるか
映画の舞台は鎌倉。江ノ電の小さな駅のある風情豊かな街。四人姉妹は築70〜80年は経たっていそうな古い家に住んでいる。幼い頃に父が去り、母も再婚して家を出た。育ててくれた祖母もすでに鬼籍に。妹たちの面倒をみながら看護師として働くしっかり者の長女……というハードな設定があり、それでもなお、ソーダ水のように爽やかな映画だった。美しい人たちのさりげない優しさや、あどけない少女のはずむような成長にうっとりした。
長女・幸(綾瀬はるか)は二人の妹(長澤まさみ、夏帆)と、長らく会っていない父の葬儀に仕方なく赴く。そこで母親の違う妹・すず(広瀬すず)と初めて会う。すずもまた中学生にして父の看病をひとりで担った、しっかりしなければいけない子どもだった。幸はすぐそれに気づいた。父の浮気相手の子であるのもお構いなしに、一緒に住まない?と迎え入れた。すずは鎌倉名物のシラス丼や「引っ越しそば」を縁側で力一杯食べ、祖母から受け継いだ梅酒について姉たちに教わり、だんだん心を開いていく。
すずは街の食堂の人や学校の友だちにも守られている。すずが花火大会に着てきたゆかたを同級生の少年が「似合ってる」と言うところ、自転車の後ろにすずを乗せて桜のトンネルを疾走してみせるところ、そんな繊細な出来事が重ねられる。自分の出生を苛なんでいたすずの苦しい気持ちが解けていくごとに、私の中にも怖い顔で居座っていた重たい「家族」の縛りが解けて、目から液体として流れ出た。
亡き父への肯定を、食堂のおばさん(風吹ジュン)がすずに話すシーンに、私ははっとした。その言葉は、長い時間を生きて、振り返ることを知っている食堂のおばさんにしか言えないものだ。私も結構長いが、まだまだそんなふうには思えなそう。赤ちゃんの産衣(うぶぎ)に麻の葉の「背守り」を縫う風習があるけれど、おばさんの言葉はすずに贈った背守りかもしれない。この映画には、すずにも、姉たちにも、この先いいことが起こりそうな兆しがさりげなく置かれていて、想像が膨らんだ。
幸は、その人が何に困っているのかを察して助ける人。でも自分のことは後まわし。ようやく、という感じで花火大会の日には妹たちとゆかたを愉しんだ。すずには自分のおさがりを、自分は祖母のちょっと地味なゆかたを。木綿の白に紺色の笹の葉とダリアの花を重ねた柄。四人揃ったゆかた姿は際立つ美しさで、目の贅沢ができた。
文、イラスト=浅生ハルミン
あさお・はるみん イラストレーター、エッセイスト。2023年6月24日に立川流真打ち・立川志の春さんの会にゲスト出演します。志の春さんは創作落語、私は朗読を。それに備えてボイストレーニングをはじめました。 https://www.suzukikoumuten.co.jp