浅生ハルミンの銀幕のkimonoスタア 3 伊豆の踊子

伊豆の踊子
 1974年公開、西河克己監督作品。川端康成の同名小説を原作として、6度も映画化されており、美空ひばり(1954公開)、吉永小百合(1963年公開)など、当時アイドル的な女優が演じた。1974年版は、山口百恵の初主演作品として話題に。

百恵ちゃんの年齢は不思議だ。『伊豆の踊子』のDVDをわがDVDプレーヤーに挿入し、久しぶりに見た百恵ちゃんは思いのほか素朴で幼くて、あれっ? と思った。私が小学生のころ、テレビで『ひと夏の経験』を歌っていた百恵ちゃんは、地味だけど迫力があってスナックの一軒でもまかされていそうな大人っぽさだったのに。引退は21歳で、妖艶な頬紅とアイシャドーがきめ細かな肌にのりにのって、宇宙人みたいにきれいだった。あれがまだ21歳だったとは。しかも芸能生活はたった7年半だったとは。百恵ちゃんってなんて濃厚な人なんだろう。『伊豆の踊子』のときは15歳。

 年齢のことよりも早く映画のことを書かねばならないが、この映画は大人っぽい子供、というのが物語の本質に関わってくる。

 伊豆を一人旅する主人公の青年と、大島からやって来た旅芸人一座の踊子との淡い恋物語というのが大筋。百恵ちゃんが演じる踊子の「かおる」を見初めたころの青年は、かおるちゃんを大人の女性だと意識したぎこちない表情だ。やがて温泉の湯船から飛び出したかおるちゃんが、素っ裸で「おーい!」と無邪気に青年の方に手を振ったとき、青年は思わず「子供だ」とつぶやき、緊張がとけたように「くくく」と笑う。缶詰のホワイトアスパラガスのようにスルンとしたかおるちゃんの裸体。恋なんかしたことがない無邪気な少女。

 無邪気といえば、印象的なせりふ「おきみちゃーん、早くよくなってねー」もあった。これは無む垢くという魔力の真骨頂だった。映画を見るとわかるのだけど、ここで映画が終わったらすごいなと思う、大胆なシーンだった。そしてなんといってもすごいのは、ふたりは全編を通して微熱というか恋の兆しを密封保存し続けるのだ。密封保存した微熱の快感をずっと味わうというか、沸騰しそうでしないまま保ち続けるというか、つまりこれは変態的な男の恋の映画だと思った。なにしろ原作者が……。しかしあくまで表面的には爽やかで可か憐れんな映画なのである。まぁくすぐったいが素晴らしいつくられ方だと思った。

文、イラスト=浅生ハルミン

あさお・はるみん 三重県生まれ。雑誌や書籍などで活躍中のイラストレーター、エッセイスト。
著書多数で、中でも『私は猫ストーカー』(洋泉社)は、2009年映画化され、話題に。
近著にパラパラ漫画『猫のパラパラブックス』シリーズ(青幻舎)。