文様のふ・し・ぎ第1回

~うさぎ~

[兎文様]
古くは飛鳥時代から、桃山、江戸時代にもさかんに意匠化されてきた兎文様。風景や植物と組み合わせることが多く、「月兎」や、因いなば幡の白兎を思わせる「波兎」、また、花と兎を組み合わせた「花兎」は、名物裂ぎれとしても有名。

 月では兎がお餅をついているという話は、誰もが子供のころに聞いたことがあるでしょう。私も幼いころは、近所のお団子屋さんが十五夜の日だけ販売するお月見団子を味わいながら、兎のいる月とはどんなところなのだろうと空想の世界に思いを巡らせていた。

 そもそもその説話は中国が発祥のもので、中国では不老不死の薬草を兎がついているように見られていた姿が、日本では転じてお餅(十五夜の望月~も ちづき~にかけて)をつく姿ともされている。この「不老不死」から兎は、長寿の意味を持ち、跳ねる姿が飛躍、また、多産ということから繁栄の象徴ともいわ れる。

 ふんわりとしていてかわいらしい印象の兎だが、文様の世界では神聖な存在として、またおめでたい場には欠かせない存在として、昔から人気者だったようだ。惹ひかれるようについ月を見上げてしまうことが多いけれど、そこには兎が一役買っているのかもしれない。

 

 

 

文=中川ちえ
イラスト=山本祐布子

なかがわ・ちえ●エッセイスト、器と道具の店「inkyo」店主。近著に『まよいながら、ゆれながら』(mille books)。お店では不定期ながら季節ごとに企画展やイベントを開催。2014年10月3日(金)~8日(水)には「新米が美味しいめし碗(わん)展」予定。詳細は http://in-kyo.net/