文様のふ・し・ぎ 43 燕

文様のふ・し・ぎ  燕(つばめ)

草木がキラキラと輝くように芽吹き、風の匂いにやわらかさを感じる頃。どこからともなく燕がやって来て、青空に黒い線を描くように町を飛び交う。

この季節、私が暮らす福島・三春町では雀(すずめ)よりも燕を目にする方が多いのではないだろうか。開店準備で外掃除をしていると、挨拶をするように聞こえてくる燕の鳴き声。

彼らは毎年律儀にお店の軒下に巣作りをする。小さな体で巣となる材料を運び、あっという間に居心地のよさそうな家を仕上げたかと思うと、安心しきったように卵をあたため始めるのだ。

ヒナが孵(かえ)ると、働き者の親鳥はせっせと献身的に餌を運び始める。ピーピーと大きな口を開け、力いっぱい鳴いて親鳥を呼ぶヒナたちと、それに応える愛溢(あふ)れる親鳥。勝手に見守っているつもりでいたが、私の方が燕の親子たちに心を和ませてもらっている

文=長谷川ちえ エッセイスト、三春町で器と生活用具の店「in-kyo」を営む。梅・桃・桜の三つの春の花が同時にやって来ることが、町の名前の由来といわれている。 日々の出来事などはInstagram@miharuno.inkyoにて。

イラスト=山本祐布子

構成=雨宮みずほ

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