文様のふ・し・ぎ 唐草
ふとした拍子に頭に浮かぶ古伊万里の皿。のびやかな線が美しい花唐草の文様が描かれていたもので、ずいぶん前のことだが気に入って使っていた器だ。出汁(だし)巻き卵を作るときはそれが決まり事のように食器棚からその皿へと手が伸びる。染付の青に出汁巻き卵の黄色が良く映えて、美味(おい)しさを引き立ててくれた。
器を選ぶ際にはどんな料理に使えるだろうかと頭の中でイメージを広げてみる。一器多用できるかと考えることが多い中、「これ」とひとつの用途を決めてもいいと思わせてくれた器でもあった。
時を経る中で手放してしまったのだが、今でも思い出す食卓の風景は、じんわりと心を潤してくれる。そもそも骨董(こっとう)は、人から人の手へと渡り、過去から現在そして次の使い手となる未来へと、記憶と豊かさを蔓(つる)のごとく繋(つな)いでいくもの。
今頃はどこかの食卓で、きっと誰かの目と心を喜ばせていることだろう。
文=長谷川ちえ エッセイスト、器と生活用具の店「in-kyo」店主。やわらかな生成り地にぽんぽんと頰紅をはたいたような梅の文様。晴れ着の記憶は成人式にあつらえた振袖。着物ならではの晴れやかな笑顔も思い出させてくれる。
イラスト=山本祐布子