文様のふ・し・ぎ 40 団扇

文様のふ・し・ぎ  団扇

パタパタパタ。暑い、暑いと言いながら団扇をあおぐ。ふと頭に浮かぶ昔の映画のワンシーン。団扇は夏の暑さを表現するために、効果的に使われていた道具だったように思う。

私が学生の頃には夏になると教室で、団扇の代わりに下敷きを使い、みんながパタパタと忙(せわ)しなく小さな風を起こしていた。それで本当に涼しくなっていたのかどうかはわからないが、暑気払いのごとく、そうすることでなんとか暑さをやり過ごしていたのだろう。

ゆるやかに団扇をあおげば、その仕草が生む風には、品と色気が生まれることを映画が教えてくれた。その連想からだろうか。目にするだけで涼を呼ぶ。猛暑の町中でも、浴衣(ゆかた)の帯にサッと団扇を挿した粋な後ろ姿を見かけたりすると、スーッと涼やかな風が運ばれてくるようなのだ。

文=長谷川ちえ エッセイスト、器と生活道具の店「in-kyo」店主。夏になると三春町のあちこちで江戸時代から続くといわれる「三春盆踊り」が開催される。三春太鼓と生で歌われる三春盆唄の盆踊りを今から楽しみにしている。詳細はInstagram@miharuno.inkyoにて。


イラスト=山本祐布子

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