文様のふ・し・ぎ 34  水仙

文様のふ・し・ぎ 水仙

 東京から福島へ移住をして七年目になる。東北の寒さにもそろそろ慣れてきたような気もするが、やはりあの冷たい空気を思い浮かべるとキュッと肩に力が入る。だからといって福島の冬が嫌いなわけでもない。今でも雪景色を目にしては、犬か子どものようにどこかはしゃいでいる自分がいる。

 実家のある千葉では冬でもお正月の頃になると、庭先に毎年八重の水仙が凛とした佇まいでいち早く花を咲かせ、辺りに漂うのはあの芳しい香り。寒いとはいえ、すでに春の気配を感じさせる。そんな水仙の香りは、私にとって実家の季節の風景を思い起こさせる記憶のスイッチにもなっている。

 数年前から我が家の庭先に植え始めた水仙の球根は、まだ芽も出ておらず、花を咲かせるのはもう少し先のこと。澄んだ冬の空気の中、あの香りに出会える日が待ち遠しい。

文=長谷川ちえ エッセイスト、器と生活道具の店「in-kyo」店主。2022年12月9日(金) ~19日(月)の期間は漆作家・宮下智吉さんの個展を開催。詳細はInstagram@miharuno.inkyoにて。


イラスト=山本祐布子

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