文様のふ・し・ぎ 金魚
実家の近くには神社があり、夏にはお祭りが行われる。幼い頃の私は、笛や太鼓のお囃子の音が聞こえてくるとソワソワしてしまうほど。通り沿いにズラリと連なる屋台。そこへ兄と一緒に行くことが何よりの楽しみだった。
たこ焼きのソースの匂いや、キラキラ輝くあんず飴に惹かれつつ、一番のお目当ては金魚すくい。赤や黒、白地に赤の斑まだら、かわいらしい出目金もいて、それらがゆらゆらと泳いでいる姿はなんとも優雅で見飽きることがなかった。
いざ金魚すくいを始めると、兄に負けじと張りあって、真剣に臨むものの、大抵濡れた和紙にぽっかりと見事な穴が開く。一瞬、がっかりはするけれど、必ずおまけでもらえる一匹を手にしてすぐさまご機嫌になっていた。
今思えば、私は金魚が水槽に描く景色をしゃがんでずっと見ていられれば、それだけで十分だったのかもしれない。
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文=長谷川ちえ エッセイスト、器と生活道具の店「in-kyo」店主。2022年5月には「AIR ROOM PRODUCTS」のシャツの展示会を開催。詳細はInstagram@miharuno.inkyoにて。
イラスト=山本祐布子