文様のふ・し・ぎ 23 立沸

『七緒vol.61』 文様のふ・し・ぎ 立涌

立涌文様 縦に並ぶ直線が膨らんだり、しぼんだりする空間をつくり、それが交互に並ぶような縦縞の文様。膨らませた間に、菊や雲などを合わせ入れた文様を「菊立涌」や「雲立涌」などと呼ぶ。平安時代以降に有職文様のひとつとされた、格の高い文様であり、吉祥文でもある。

 現在、私が暮らしている福島県の三春町は、梅・桃・桜の三つの春が同時にやってくることが町の名前の由来と言われている、自然が美しい土地。

 春先の早朝、前日に降った春雨が土を湿らせ、山を覆うようにモヤが立ち込めることがある。そのモヤの向こうには枝垂れ桜のピンクや木々の姿がぼんやりと浮かび、その静かで幻想的な景色に心奪われてしまうほど。慌てて写真を撮ってみるものの、目で見て感じたようにはいかず、結局は諦めてしまう。

「立涌」というシンプルな文様は、水蒸気が立ち上る様子を表している。水蒸気という目に見えないものを形にすること。しかもそれをわかりやすく、かつ美しい形にして共通言語を探るように表現すること。立涌の文様は、そんなデザインの概念を元に今もこの先も受け継がれていく。

文=長谷川ちえ  エッセイスト、器と生活道具の店「in-kyo」(福島県田村郡三春町)店主。2019年12月6日〜17日、漆作家・宮下智吉さんの個展を開催。日々の食卓で使いたくなる漆の器が並ぶ。https:// in-kyo.net

イラスト=山本祐布子

Vol.61はこちら