文様のふ・し・ぎ 21 ぶどう

『七緒vol.59』 文様のふ・し・ぎ ぶどう

ぶどうといえば、小粒のデラウェアが実家では定番だった。一粒ずつ食べるのがもどかしく、子供の頃は兄の真似(まね)をして、お行儀悪くいくつかをまとめて口に入れ、皮だけをプップッと上手に出すのを競っていた。  以前、実家は商売を営んでいて3時のお茶の時間になると、小さなちゃぶ台を囲んで従業員の方が祖母や母とともにひと休みをするのが日常だった。ぶどうの季節には一人一房を器に盛ったものが私たち兄弟にも配られた。ぶどうが盛られるのは決まって紫色をしたガラスの器。昭和の頃に大量生産された安価なものだったと思うが、子供ながらに気に入っていて「ぶどうのお皿」と呼んでいた。小粒でもたくさんの実をつけたぶどうがお揃いの器に盛られ、みんなでぐるりとちゃぶ台を囲む景色は、豊かであたたかなものとして今も記憶に刻まれている。 ぶどう文様 一つの房に多くの実がなるぶどうは、豊穣(ほうじょう)のシンボルとして、古代ペルシャや、古代中国でも聖なる果物とされてきた。今でも子孫繁栄の吉祥文様とされ、着物や帯に多く見られる。実だけでなく、特徴的な形の葉やつると一緒に描かれることが多い。

文=長谷川ちえ
器と生活道具の店「in-kyo」(福島県田村郡三春町)店主。http://in-kyo.net/


イラスト=山本祐布子

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