文様のふ・し・ぎ 18 雪持ち文様

『七緒vol.58』文様のふ・し・ぎ 雪持ち文様

 雪が辺りの音を全て吸い込んでしまったかのようにシンと静まる中、木々に積もった雪がその重みに耐えかねて、時折ドサッと落ちる音にドキリとすることがある。 草木にふんわりと綿帽子のような雪が積もった様子を文様にした「雪持ち文様」は、食いしん坊は音の響きだけを聞くとつい「雪餅」とイメージしてしまうのだが、冬の寒さに耐え忍ぶ様子といった日本人ならではのつつましい感性が、この文様に込められている。また、大雪の年は豊作豊穣の吉兆という説もあり、たっぷりと積もった雪の文様は豊かさも連想させ、おめでたい席でも好まれる。 真っ白な雪にすっぽりと包まれた世界。でもその下では色鮮やかな植物や虫、動物たちが春よ来い、早く来いと待ちわびている。そして人々はなおさらのこと。春を静かに待つ強い思いも託されている。

 

雪持ち文様

 

雪持ち松、雪持ち椿、南天、笹……。さまざまな草木に、雪が降り積もったさまを表す文様。安土桃山時代以降は、雪景色の観賞も貴族の楽しみのひとつとなった。情感たっぷりに、和歌にも詠まれている。その時代に好まれた雪持ち文様は、縫い箔はくなどの手法で、能装束の柄としても登場する。「雪持ち葦あし」柄の小袖も。

文=長谷川ちえ
エッセイスト、エッセイスト、器と生活道具の店「in-kyo」店主。移転先の福島県三春町は歴史のある寺院も多く町歩きが楽しい。http://in-kyo.net/


イラスト=山本祐布子

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