文様のふ・し・ぎ 16 帆掛船

帆掛船

追い風を受け、青空に向かって帆がふわっと大きく膨らむ。海に白い線を引くようにしながら波しぶきをあげて軽快に進む帆掛船の姿。生まれ育った町もそして今暮らす場所も海の近くではないからか、そんな景色を見ることはどこか異国のようで憧れる。 文様の世界では植物や生きもの、月や雨などの自然現象が多い中、船はめずらしい建造物のモチーフ。四方八方を海で囲まれた日本人にとって昔からなじみがあることから船は他の文様と同様に多彩に描かれている。種類も宝船や南蛮船、屋形船など色々あるが庶民に身近なものは「帆掛船」ではないだろうか。波と合わせて描かれることが多く、幾何学的なモダンなものや、順風満帆の言葉の通り希望に満ちた様子が文様からうかがえる華やかなものも。ボーダーを波に見立ててそこへ船を浮かべれば、夏にぴったりの爽やかなマリン風。今も昔もおしゃれ心をくすぐる人気の文様なのだ。

 

【帆掛船】

「船」が、染色品のモチーフとして登場するのは、室町時代・桃山時代以降。異国からやってきた大きな〝南蛮船〟、米俵などの宝物をたっぷり積んだ〝宝船〟、また帆をかけた〝帆掛船〟が主流だ。大きく膨らませた帆が特徴的な帆掛船は、未来の希望を感じさせる、めでたい文様。

文=長谷川ちえ
エッセイスト、エッセイスト、器と生活道具の店「in-kyo」店主。移転先の福島県三春町は歴史のある寺院も多く町歩きが楽しい。http://in-kyo.net/


イラスト=山本祐布子

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