文様のふ・し・ぎ 11 貝文様

貝文様

学生の頃の授業で、春の季節料理として蛤のお吸いものの調理実習があった。蛤の貝殻は対になっている貝殻でなければぴたりと形が合わず、そのことから仲の良い夫婦を表し、夫婦円満や良縁を呼ぶ縁起ものとして桃の節句に食べるようになったそう。蛤を見るたび、そのときに学んだことを思い出す。

 平安時代には貴族の風流な遊びとして貝合わせというものが流行していた。これは蛤の貝殻を両片に分かち、対となる貝を探して合わせるもの。また江戸時代にはこの貝を入れる貝おけという入れものに、美しい蒔絵がほどこされ、嫁入り道具にもなっていた。この貝合わせや貝おけの文様は、蛤自体が持つ意味と同様に、縁起の良いものとして好まれている。

 生涯一人の人に添い遂げてほしい。現代では古風とも捉えられるかもしれないが、貝合わせの文様には娘の幸せを願う親の思いが今も昔も変わらず込められているのだ。

 

【貝文様】

蛤や帆立貝、さざえなど、その形や色の美しさから、文様としても多く描かれる貝。なかでも、二枚貝である蛤は、貝殻が決してほかの貝殻と合わないことから、夫婦円満、貞操の象徴として、婚礼道具などに多く見られる。

文=長谷川ちえ
エッセイスト、エッセイスト、器と生活道具の店「in-kyo」店主。移転先の福島県三春町は歴史のある寺院も多く町歩きが楽しい。http://in-kyo.net/


イラスト=山本祐布子

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