文様のふ・し・ぎ 3 葵

葵~あおい~


ハート形の葉っぱに葉脈が描かれた葵の文様は、フタバアオイ(ウマノスズクサ科)をモ
チーフ化したもの。花や葉が見ごろとなるのは、春から夏にかけてだが、文様として
は、縁起がいい吉祥文様ということから、季節は問わず、着物や帯に広く使われてい
る。

「この紋所が目に入らぬか」の決めぜりふ。これを聞けば多くの人が印籠(いんろう)に描かれた徳川家の「葵の御紋」をきっとすぐに思い浮かべるでしょう。
 そもそもこの「葵の御紋」はフタバアオイの葉をモチーフにしたもので、京都の賀茂神社の神紋でもあり、賀茂葵とも呼ばれている。5月の中旬に行なわれる葵祭(賀茂祭)は、多くの人でにぎわう例祭。徳川家は賀茂神社との縁で、三つ葉の葵の文様を家紋とした。
 葵の特徴は長い茎が地上を這い、茎の先端に対の葉をつけること。葉は常に太陽を向く習性があり、「あおい」の言葉が太陽を「あおぐ」ともとられ、幸先(さいさき)良いとされたようだ。
 ハート形の葉にくるんと大胆に描かれた葉脈。かわいらしさも感じるが、江戸時代には徳川家と一部の家以外の使用ははばかられたとか。一般的には、明治時代に入り使われるようになったそう。

文=中川ちえ
イラスト=山本祐布子

なかがわ・ちえ●エッセイスト、器と道具の店「inkyo」店主。店では、イベントやワークショップも定期的に行なっており、4/29~5/6は、イラストレーター・木下綾乃さんの展示会の予定。詳細はhttp://in-kyo.net/ ちなみに中川さんの御朱印帳には三ツ葉の葵がポップに描かれているそう。