えんぎもの 2019夏

 熱帯夜続きで睡眠不足気味の夏の朝、ぼんやりとした頭を覚まそうと、池のまわりを散歩すると、水面をびっしりと埋め尽くしたつやつやの葉陰からすーっと伸びた茎先に、ぽっ、ぽっ、ぽっ。ふっくらとした蓮の花が咲いている。まだ夢の続きを見ているかのようなこの静謐(せいひつ)な景色を目にすることができた日は、気持ちが清々とする。

 ご存じのとおり、蓮の地下茎であるレンコンは、穴が「未来の見通しがきく」とされ、おせちにも欠かせない、よく知られた〝えんぎもの〞だ。その地下茎とは別に、水面に見られる蜂の巣状の花托(かたく)もまた、縁起のいいものなのである。蓮は「花果同時」といって、開いたときにはすでに花托の赤ちゃんがその中にある珍しい花だ。その花托には複数の穴が開き、穴の中に一つずつ種ができることから、豊穣(ほうじょう)や子孫繁栄を象徴するとされている。

 そして、蓮の花は泥水の中に咲く。清らかな水では大きく育たないという。泥水から立ち上がってきたのに決して汚れていないという「汚泥不染」な花であるため、俗人に染まらない〝君子の花〞としてありがたがられているのだ。その穢(けが)れのなさは奇跡的ですらある。仏様が蓮の花の上に座っているとされているだけのことはある。日本では仏教というとどうしても〝あの世〞のイメージが強くて、祝い事では敬遠されがちだが、アジア圏をはじめ多くの国で、蓮は吉祥花とされている。

イラスト=川口澄子 文=編集部

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