えんぎもの 2018冬

 ここ数年、木枯らしが吹いて空気が乾いてくると、必ずといっていいほど咳(せき)に悩まされている。風邪も流行(はや)る時季だ。手洗い、うがい、そして「南天のど飴(あめ)〜♪」である。あのCMソング、季節が来るとつい口ずさみたくなってしまう。なんといっても、「南天」、難を転じてくれそうじゃあないか。

 咳止め効果の高い生薬として知られる南天の実。冬に赤い実をつける南天は、正月花としても知られている。つやつやした赤い実は、見るからに明るく、生命力に満ちて、おめでたい。赤は厄よけの色。雪を被(かぶ)った雪持ち南天の絵柄は、紅白でさらにすがすがしくおめでたい。おめでたいといえば、慶事に食べる赤飯には南天の葉が欠かせない。南天の葉では赤飯の熱と水分が作用すると、チアン水素という成分が発生し、赤飯の腐敗を抑える効果があるという。おせち料理の重箱に入っているのは、縁起を担いでのことだろう。

 古くは枕の下に南天の葉を敷いて眠ると、悪い夢を見ない、という言い伝えも残っている。『和漢三才図会(わかんさんさいずえ)』には、南天を庭に植えれば火災を避けられる、とあり、江戸時代にはどこの家でも火災よけ、さらには厄よけとして南天を植えていたという。

 中国では古来、南天のことを「南天燭(なんてんしょく)」と呼ぶらしい。「燭」とは灯火(ともしび)のこと。餌となるものが少なくなる冬場には、鳥にとってもあの赤は命をつなぐ灯火なのだろう。

イラスト=川口澄子 文=編集部

Vol.56はこちら