たこ
関東で生まれ育った身にはなじみがないのだが、関西地方では半夏生(はんげしょう)の頃にたこを食べるという風習があるらしい。スーパーの鮮魚コーナーにはふだん以上にたこが並ぶんだとか。それ以外の地
域では植物に詳しくないと、半夏生、という言葉にもなじみがない人も多いのではないだろうか。
半夏生とは、七十二候のひとつで雑節(ざっせつ)のひとつでもある。夏至が過ぎ、梅雨の終わる頃だ。ちょうど、葉っぱの一部が白い「ハンゲショウ」という植物が生い茂る時期と重なる。
夏至の頃といえば、田植えシーズン真っ盛り。今と違って昔の田植えは1本ずつ手植えの重労働。さらに夏至から半夏生までに田植えを終えればその年は豊作になると信じられていたため、この時期の農家は大忙しだった。無事に田植えが済むと、田の神様にたこを捧げて豊作を祈願したのが、半夏生にたこを食べるはじまりらしい。
それにしてもなぜ、「たこ」なのか? たこは「多幸」につながる。また吸盤は、良いものに吸い付き、墨は、苦難を煙(けむ)に巻くなどといわれて、古くから縁起ものとされてきた。
田植えで植えた稲が、たこの足のように八方にしっかりと根を張るように、と祈願する半夏生の時期は、ちょうど真だこの水揚げ最盛期。タウリンが多く含まれていて疲労を回復させる効果がある。このことを昔の人も経験上知っていて、田植えで疲れた体を癒やし、これからやってくる暑い夏を乗り切ろうとしたのではないか。
イラスト=川口澄子 文=編集部