つつじ
ほのかに色づく桜の花と入れ替わりに、いっそう鮮やかな色で咲きはじめ、初夏に向かう季節の移ろいを告げるつつじ。その語源は「続き咲き木(ツヅキサキギ)」。すなわち、花が次々に咲くことから縁起がいいとされてきた花木だ。「水伝ふ磯の浦廻(うらみ)の岩つつじ もく咲く道をまたも見むかも」と『万葉集』にも歌われるなど、古代から愛されてきた。つつじを漢字で書くと「躑躅」。画数が多く、1字ずつ分解したとしても、どちらもなじみの薄い文字だ。音読みで「てきちょく」と読む。足踏みし、あがく、躊躇(ちゅうちょ)する、が原義だとか。咲く花が美しすぎて、人の足を引きとめたのが、この漢字を当てた理由だと推察すれば、なるほど、と思わざるを得ない。学校から家までの道を、この花の蜜を吸いながら帰っては、ついつい帰宅が遅くなって母に叱られたのを思い出す。あ、これは花より蜜に夢中になっていたからか。
つつじには300を超える種類があるという。群馬県の館林には樹齢800年を超えてなお、毎年美しい花を咲かせる古木がある。ちなみに皐月(さつき)はつつじの一種。つつじの名所は日本列島北から南まで数多く、春の穏やかな日差しの下、神社やお寺などの庭を回遊しながら、色とりどりに咲き競う花を楽しむ人が大勢繰り出す。神社やお寺につつじの名所が多いのは、この花木が縁起のいい植物だということも理由のひとつかもしれない。
イラスト=川口澄子 文=編集部