菖蒲
五月五日は端午の節句。言わずと知れた男の子の成長をことほぐ日だ。この日、菖蒲湯に入るという家庭も多いのではないか。この菖蒲湯に入れる〝菖蒲〞の形が刀に似ているのと、その香りが爽やかで邪気をはらうかのようであることから、〝菖蒲〞は男子にとって縁起の良いものとされている。武士の世の中になると「しょうぶ」=勝負、あるいは尚武(武勇を尊ぶの意)の音に通じることから、男の子の節句になくてはならないものとされるようになったのだという。
ところで、菖蒲という字、〝しょうぶ〞とも読むが、〝あやめ〞とも読む。あぁなるほど、〝しょうぶ〞の別名を〝あやめ〞というのね……、と思うのは早合点、というもの。
菖蒲湯に入れるこの植物は、刈り取らずにそのまま植わっていても、いつまでたってもあんな大きな美しい花は咲かない。花穂(かすい)という地味な花が付くだけだ。大輪の花が咲く〝花菖蒲〞とは、品種からして違うのだ。大きな花が咲くのはアヤメ科の植物。一方、端午の節句のそれは、サトイモ科の植物なのである。
「いずれ菖蒲か杜若」とうたわれる〝菖蒲〞は〝あやめ〞である。よく似ていてどちらが優れているともいえないことを指すこのことわざのとおり、菖蒲(あやめ)や杜若、花菖蒲もよく似ているが、これもまた似て非なるもの。水辺に咲くのは杜若、湿地に咲くのが花菖蒲、あやめは乾いた地に生えるのだから、まったくややこしい。
イラスト=川口澄子 文=編集部