えんぎもの 2016夏

 暑いアツい夏の窓辺を一陣の風が通り過ぎると、チリリン、チリリンと軽やかな音色が聞こえる。風鈴の音は、一服の清涼剤だ。

 この涼やかな音には、小川のせせらぎや小鳥のさえずりなどの自然界の癒やしの音と同じ周波数を含んでいるという。これが耳に心地よく、脳をリラックスさせ、清涼感をもたらすのだとか。

 暑い季節には病が広がりやすく、強い風は病や悪い神を運んでくるといわれてきた。だが、風鈴の聞こえる範囲は聖域とされ、災いが起こらないという。風鈴は、夏の魔よけの道具、えんぎものなのだ。

 古今東西、清らかな音には邪気を払ったり、場の気を良くする効果があるとされている。玄関のドアチャイムや神社の拝殿の鈴なども同様の効果を狙ったものだ。

 江戸の町では、夏になると風鈴売りがたくさんの風鈴を吊り下げて売り歩いていた。「売り声もなくて 買い手の数あるは 音に知られる風鈴の徳」と狂歌にあるように、魚売りやそば屋の屋台が売り声で客を呼び寄せていたのに対し、風鈴売りだけは、風鈴の音色を聞かせるために声を上げずに売り歩いたという。

 そういえば、何年か前、夕暮れ時の銀座の街で風鈴売りを見かけたのを思い出した。たくさんの風鈴が夜風を受けて澄んだ音を鳴らしていた。

 

 

イラスト=川口澄子 文=編集部