福笑い
最近でこそあまり見かけない風景になってしまったが、子供のころ、正月に親戚が集まると、凧(たこ)揚げ、羽根つき、独楽(こま)回し、家の中では百人一首やすごろく……、そして「福笑い」も年始には欠かせない遊びだった。目隠しをして、のっぺらぼうの大きな顔の上に、鼻と口、両の目や耳や眉といったパーツを一つずつ置いていく。周りは夏のすいか割りよろしく、「もっと右!」「いや、もっと下!」とはやし立て、すべてのパーツを置き終えて目隠しを外すと可笑(おか)しな顔がそこにある、というわけだ。その可笑しさを皆で笑って正月を祝う。〝笑う門には福来る〟。縁起のいい遊びなのだった。
「福笑い」の顔といえば、鼻が丸くて頬がぷっくりした、〝おかめ〟だとか〝お多福〟とか呼ばれる女性の顔が多い気がする。〝おかめ〟(お多福)の起源は、天の岩戸に閉じこもってしまった天照大神(アマテラスオオミカミ)を踊りで誘い出したアメノウズメノミコトだと言われているそうだ。「〝おかめ〟みたいな顔」と言われたら、まぁ、あまりいい気分はしないだろうが、平安のころまでは丸顔の女性こそが美人とされていたというし、そのころは福々しい女性の体つきが厄災の魔除(よ)けになると信じられていたとも聞く。〝おかめ〟の福々しい面は、福を呼ぶとされて、そういえば酉(とり)の市の熊手にもよく見られるではないか。
もしも、ぎょろりと目をむき、口をかっと開けた般若のような顔の「福笑い」だったなら、到底笑えるはずもない。もともと福を呼ぶ面相なればこそ、の遊びなのである。
イラスト=川口澄子 文=編集部