DAY3 「パーフェクトでなくてもいい」。新しい着物のスタイル
色や文様を描くひとつ手前、白生地と呼ばれる真っ白な着物の反物は、
日本海に面した海の京都、丹後半島で生まれます。
着物研究家のシーラ・クリフさんとともに、京丹後を訪れた
さまざまな国から日本にやってきたひとびと。
3日目は、和洋ミックスの新しい着物スタイルで出かけます。
「パーフェクトでなくてもいい」という発見から、
着物の扉がまた開きました。
シーラ・クリフ
着物研究家。イギリス生まれ、ほぼ365日着物生活。リーズ大学大学院博士課程修了。十文字学園女子大学名誉教授。著書に、『Sheila Kimono Style』(東海大学研究所)、『Sheila Kimono Style Plus』(東海大学研究所)ほか。ファッションとしての着物の豊かさ、楽しさを抜群のスタイリングセンスの着こなしで伝えている。
訪れたのは……
その1 KISSUIEN Stay&Food ユニークな着物姿に変身
その2 丹後織物工業組合中央加工場(丹後ちりめん祭り1) 丹後と着物の「つながり」を感じる
その3 丹後織物工業組合中央加工場(丹後ちりめん祭り2) しぶきアートが生むエネルギー
その4 きもの古~いマーケット(フリーマーケット) たんすの着物で宝探し
その1 KISSUIEN Stay&Food ユニークな着物姿に変身
最終日の着物コーディネートは、2日目の正統派の着こなしと一変しました。
スカートと合わせたり、ジャケット風にしたり、サングラスやアクセサリーをプラスしたり……。
着物が個性を表現するメディアになっています。
着つけの先生ともすっかり仲良くなりました。
「こんな着方をして大丈夫かしら」。
抱いていた不安も、シーラさんが明るく吹き飛ばしてくれます。
「裄(ゆき)丈も気にしすぎないで。その着物を愛していたら大丈夫」。
「いつもの生活では、わざわざ着物を着る必要はないでしょう。
せっかく着物を着るのだから、楽しく着ましょう!」
その2 丹後織物工業組合中央加工場(丹後ちりめん祭り1) 丹後と着物の「つながり」を感じる
美しい文様が浮かび上がった反物。
紋意匠ちりめんと呼ばれる織物です。
丹後ちりめんには、無数の凸凹――シボが美しい陰影を生む無地ちりめんと、花や蝶を描いた紋意匠ちりめんの大きく2種類があります。
最盛期には1万軒をこえた機屋は、ここにしかない素晴らしい織物を生み出してきました。
丹後ちりめん祭りも最終日。
今日の会場は1日目も訪れた丹後織物工業組合中央加工場です。
かつての作業場をリノベーションし、ウッドチップを敷き詰めたモダンな空間でテキスタイル展示や、シーラさんと七緒編集長・鈴木康子さんのトークセッションが行われました。
「着物は“つなぐ”」。
ふたりの対談から、何度も出てきたキーワードです。
異国の風景を織った帯は、文化を紹介してくれる。
新しい技術を取り入れると、イノベーションをもたらしてくれる。
誰かの着物を受け継ぐと、物語をシェアしてくれる。
「丹後は、着物好きにとって特別な土地。
誌面でどのように伝えたら読者の方とものづくりの場所を結べるか、もっと考えていきたいと思います」。
鈴木さんの言葉は、編集者としての想いが溢れていました。
「何度訪れても、織物に感動して、食べものもおいしくて、自然も美しくて、みんな優しくてあたたかい。
丹後は、私にとってフルーツバスケット!
伝統の重さに捉われず、新しい着方や暮らしの提案を通して将来をつくっていただきたい」。
シーラさんの言葉は、愛とエールのかたまりでした。
産地は、これからどのような姿を見せてくれるでしょうか。
無数の小さなアクションが波紋のように広がり
きらめくさまは美しいシボを描いている。
そんな未来を、みんなでつくれたら……。
深い共感に包まれ、トークセッションは幕を下ろしました。
その3 丹後ちりめん祭り2 しぶきアートが生むエネルギー
真っ黒な着物に、シブキが放たれる。
マリンバ、和太鼓、電子ピアノが奏でるライブミュージックに乗ってパフォーマンスを見せてくれたのは大下倉(たかくら)和彦さん。
京丹後市出身のアーティストです。
伝統的染色技法から独自に編み出した「高蔵染(たかくらぞめ)」は、素手でペンキを自在に操り、軽快なフットワークを踏み、会場のエネルギーに呼応してシブキアートを生み出します。
ツアー参加者、シーラさん、鈴木さんがシブキを浴びていると会場から飛び入り参加の2人も加わりました。
クライマックスに向けて、自然に手をつないで皆が一つになっていきます。
言葉や文化が異なっても、着物とアートは心をつないでくれる。
そんな想いがまさにカタチになったような瞬間でした。
この旅で何度も目にした、着物の可能性がさらに広がりました。
その4 きもの古~いマーケット(フリーマーケット) たんすの着物で宝探し
旅のクライマックスは、「きもの古~いマーケット(フリーマーケット)」。
丹後の家庭に眠っていた着物や反物のフリーマーケットです。
魅力的な着物があっちにも、こっちにも……みんな宝探しに夢中!
着物の自由な着こなし方を覚えたツアー参加者たち。どんなアレンジにしようとアイデアが頭の中を駆け巡っているようです。
あっという間に、帰路につく時間がやってきました。
着物産地・京丹後への旅。
織元の工場で見た、ものづくりの風景。
丹後に紡がれた、ちりめんの歴史。
みんなで描く、着物の未来。
夕暮れに包まれながら、バスが京丹後を発ちました。
3日目に訪れたのは……
その1
KISSUIEN Stay&Food
京都府京丹後市峰山町杉谷943
TEL 0772-62-5111
●着替えの舞台となった今旅の宿。2022年春にモダンなしつらいでリニューアルオープン。長寿の町・京丹後の食材を生かしたレストラン「aun」や、隣の建物には酵素風呂やサウナを併設する温浴施設「ぬかとゆげ」など体が健やかになる施設も。
https://kissuien.jp/
その2・その3
丹後織物工業組合中央加工場(丹後ちりめん祭り)
京都府京丹後市大宮町河辺3188
TEL 0772-68-5211
https://tanko.or.jp/
●絹の産地として、精練・整理などの加工を一手に引き受ける加工場。湯気の上がる工場から絹布が生まれるさまは圧巻。一般の見学も可(要事前予約)。“丹後ちりめん祭り”のもう一つの会場となっており、地元の有志によるファッションショーや、キモノdeディスコ!(チケット制)などの催しも。詳細は京丹後ナビにて。
https://www.kyotango.gr.jp/
その4
きもの古~いマーケット(フリーマーケット)
京都府京丹後市峰山総合福祉センター2階コミュニティーホール
●丹後ちりめん祭りと同時開催されるリサイクル着物のフリーマーケット。着物との距離が近い産地ならではの掘り出し物も。出品は同年の8月から受け付けている(出品多数の場合受付終了になります)。詳細は京丹後市観光公社 峰山町支部公式ホームページ・羽衣ステーションにて。
https://www.hagoromo.gr.jp/category/event/
文・原田美帆(PARANOMAD)
テキスタイルデザイナー・メーカー。兵庫県川西市出身。彫刻を学んだのち、インテリアコーディネーター、彫刻家アシスタントを経て丹後に移住。2023年4月、ファクトリー「MADO」をオープン。テキスタイルを織ったり、文章を書いたり、ローカル団体の立ち上げをしたり、いろんなナリワイで生きてます。
PARANOMAD https://paranomad.net/
撮影・石川奈都子
写真家。呉服屋の孫として奈良に生まれる。西陣の長屋在住30年で、現在は大原と2拠点生活中。3・6・9・12月の8日は「環の市」「ベジサラ市」を主宰開催、年に一度禅寺選佛寺にて「うむ。」を共催。ウェブメディアHIRAKU-Cosmic Breathing-をローンチし、編集長、執筆、撮影をライフワークとして展開している。育児中で据え置き中だが気分転換に着物を着たい派。
HIRAKU https://kurashino.org/
石川奈都子写真事務所 ishikawanatsuko.jp