「京組紐」のネックレス
突然ですが、海外旅行へ行ったときに空を見上げて、日本とは色合いが違うなあ、と感じたことはありますか? 色の源は光。光の波長の違いなどでひとは色の違いを認識するそうで、つまり気候が異なれば色の見え方も変わるということ。ヨーロッパにはヨーロッパの、日本には日本独自の色というものが存在するというわけだ。
日本の色といえば、平安時代の装束の配色に「重ね(襲かさね)の色目」と呼ぶものがある。合わせの色目ともいい、2色の薄絹衣を重ね着することで3色目が生まれる。四季折々を表現し、植物や自然の風物にちなんだ美しい名がつけられていて、秋ならば、 花はな薄すすき・ 落栗(おちぐり)色・ 紅菊(くれないぎく)……。目を瞑つむればたちまち想像の風景が色づいていく。
〝おだまき〞と呼ばれる3色の珠たまが連なる組紐のネックレスを見つけたとき、絹糸の発色の鮮やかさ、配色の妙は、まさに〝いま〞の重ねの色目だと感じ、心が躍った。着物の着こなしにスパイスを加えてくれる帯締めが、ネックレスに姿を変えて、洋服のアクセントになるなんて。
飛鳥・平安のころに中国より伝えられたという組紐には3500種類にも及ぶ組み方があるという。色の配色や糸の太さを巧みに組み合わせ、装身具や調度品などを彩ってきた。 季節の移ろいがある日本人ならではの感性は、時代を経ても変わらない。どれにしようかと、うれしい悩みを繰り広げる女子たちの姿もまた、永遠の風景なのかもしれない。
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「ilono*tavi corocoro」 平安時代より王朝文化を演出してきた組紐は、時代を経てさまざまな用途へと広がりを見せた。手染めのシルク糸を撚(よ)り紐にし、職人がひとつひとつ組み上げたものを、つなげてネックレスに仕立ててある。本来、おだまきの珠の芯材は木製だが、素材にひと工夫することで、ボリュームのある見た目に反して着け心地は軽い。各色に名前がつけられている。写真は「haru」。全11色・各2万3760円。「昇苑くみひも」☎0774-23-5510 http://www.showen.co.jp/
文、セレクト=つるやももこ 撮影=尾嶝 太
つるや・ももこ 1975年生まれ。女子美術大学デザイン学科卒。旅・道具・暮らしとそれにまつわる人をテーマに取材執筆を行なう。著書に『旅のかけらの残し方』(アスペクト)など。