新 手仕事ニッポン25

「肥前吉田焼」のロースター(佐賀県・嬉野市)

 つるりと白い素焼きの耐熱磁器にコーヒーの 生豆を落とすと、カタカタッと音が弾む。ガスコンロのつまみをひねってハンドルを揺らし、 南国からやってきた豆が奏でるリズムに耳を傾 ける。ドーナッツみたいな穴から煙が白く広が って、甘い香りが鼻をくすぐった。
 緑茶や温泉で知られる佐賀・嬉野は、鍋島藩の時代から400年近く続く肥前吉田焼の里。 有田、波佐見といった名だたる焼き物の産地の そばで、暮らしの雑器をつくり続けてきた。しかし時代の流れとともに、次第に衰退してきたという。
「プライベートロースター」に使われる陶土は、 一般的な吉田焼のものとは異なる耐熱土だ。扱 いや焼き方の工程も全く違う。難しいからこそ、 小さい産地ならではの自由なものづくりで、吉 田焼の未来を描きたい。若きつくり手の覚悟か ら、軽やかな形は生まれた。
「煎る」という行為は日々の暮らしから遠ざかりつつあるけれど、煎りたての香りは格別だ。 たとえば焙じ茶にみかんの皮を足してロースターにかければ、自分だけのお茶の時間が生まれ る。もちろんコーヒーも。
 コーヒーブレイクが必要なときがある。気分を刺激し、ときに沈めてくれるこの飲み物を、 あの人もとても好きだった。挽いた豆をフィルターに入れて熱い湯を注ぐと、とびきりの琥珀色の液体が生まれる。香ばしいひと口を含んで、 「それで最近、どうしてたの?」。ねぇ、そんな話を一緒にしよう。

文=編集部 撮影=尾嶝 太

連載を執筆下さったつるやももこさんが、病で亡くなられました。自身が納得した上で取材 先に深く寄り添った姿勢に、あらためて敬意を 感じます。近著に『Body Journey 手あての人と セルフケア』(アノニマ・スタジオ)。お互い100歳になって一緒にコーヒーが飲みたかったよ。 ご冥福を心からお祈りします。

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