新 手仕事ニッポン24

「山鹿灯籠」のアロマディフューザー(熊本県・山鹿市)

 小さな陶器の壼(つぼ)には、草花ではなく和紙の蕾(つぼみ)がちょこんと乗っている。蓮(はす)の花の蕾のような、あるいは、蝋燭(ろうそく)の炎のようにも見える。その黄緑色にそっと顔を近づけると、ほのかにいい香りがした。壼の中にアロマオイルが入っていて、それを和紙が吸い上げ、周囲に芳香を放つ仕組みなのだという。


 そう、「かぐわし」の要は和紙。6枚の紙片を繊細に貼り合わせたこの形(デザイン)は擬宝珠
(ぎぼうしゅ)と呼ばれ、建造物の欄干などの装飾にも見られるもの。じつはこの和紙製の擬宝珠を作っているのが、熊本・山鹿(やまが)の灯籠師と知り、初めて聞いたその土地にまずもって思いをめぐらせた。


 調べれば、この山間の町では、年に一度、地元、大宮神社の例大祭として、燈籠(とうろう)祭という神事が行われているとのこと。この祭りで奉納されるのが和紙のみで作られる「山鹿灯籠」。それを制作するのがこの地に8人だけという灯籠師。彼らは、町内や団体が所有する神輿(みこし)の上に乗せる灯籠を丸1年かけて制作するという。それゆえその表現は多彩だ。モチーフは神社や日本家屋、城など、一見灯籠とは言い難いものばかり。だが、この地での〝灯籠〞とはつまり、和紙工芸そのものを指すのだと知り、腑に落ちた。


 日本に伝わるほとんどの道具は、地産の素材があってこそ生まれるものだ。しかし、このアロマディフューザーは一味ちがう。山鹿という土地が育んだ文化を伝えるために現代に生まれた、類稀(まれ)なる一品なのである。

文、セレクト=つるやももこ 撮影=尾嶝 太

つるや・ももこ  2020年4月7日に、自身のからだをめぐる旅と出会いの記録をまとめた著書『Body Journey〜手あての人とセルフケア』(アノニマ・スタジオ)を刊行。https://hoailona.com

Vol.61はこちら