京菓子のスライスようかん (京都府・下京区)
トースターから取り出すと、きつね色に焼けたパンの上であんこがぐつぐつ躍っている。正確には、これはあんこではなく、ようかん。それが薄くスライスされている。なんでまた、ようかんをパンにのせようと思ったのか。しかもこれを作っているのは、創業1803年の京 菓子の老舗(しにせ)である。 ところでこの形、見覚えありますよね?そう、とろけるアレです。発案者は当主の奥様。 ある朝、子供たちの朝食を作っていたときのことだ。甘党・次男に、食パンに大好きなあんこを塗って焼いてほしいとリクエストされたものの、冷えたあんこを柔らかいパンに均一に塗るのになかなかに難儀した。ふと、トースターに並んで置いた辛党・長男のパンを見れば、絶妙な大きさと薄さのチーズがペロンと鎮座ましましているではないか……。 こうして、忙しい朝の出来事をきっかけに、大粒でふっくらとした最高級品、丹波産の大納言小豆を使い、素材も製法も、そして味わいも老舗のレシピに法(のっと)って生まれたのが、この「スライスようかん」というわけ。 ほおばると溶けたバターのしょっぱさと小豆の優しい甘さがあいまって、おかわりしたくなる。スライスしてあるとはいえ、粒あんらしい皮の歯ごたえも生きていて、何より、ようかんは、温めると豆の香りが引き立つのだと気づく。 伝え継ぐことを大切にしながら今にアンテナを張る大切さ。自由の妙味は、しがらみがあってこそきらりと光る。
文、セレクト=つるやももこ 撮影=尾嶝 太
つるや・ももこ 旅と人をテーマに執筆。ウェブマガジン『Hō'ailona(ホーアイロナ)』を運営。2019年12月に、からだとこころの旅をテーマに、自著を刊行予定。ウェブサイトhttps://hoailona.com、インスタグラム@ho.ailona