新 手仕事ニッポン19

蒔絵(まきえ)のピンブローチ(石川県・加賀市)

小さな世界に込められた願い。

この、なんとも言えない、心をぐっと掴(つか)まれるような感じ。「出会ってしまった」。はやる心を抑えてブローチに手を伸ばす。直径数㎝の愛いとおしい動物や人形のお顔。指でなぞればなめらかで、光に傾ければ優しく反射する。これらは、日本の漆工芸の装飾技術である蒔絵を主に、螺鈿(らでん)や卵殻を駆使しつくられている。

クラシックな伝統美がありながら、モチーフには、どことなく子どもの絵のような、素直な感性がある。そのプリミティブな佇まいに、天然石や貝でつくるネイティブアメリカンのお守り・フェティッシュにも通じる、〝祈り〟のようなものを感じたといえば大袈裟(おおげさ)か。

「漆工芸大下香仙工房」は創業から120余年を刻む。高雅な加賀蒔絵の技法を現代へ繋つなげたいと、新たに始めたクリエイションが「Classic Ko」。Ko とは屋号にもある〝香.であり、お気に入りの香りを纏まとうように、アクセサリーを通し、伝統が培った感性を味わってほしいという、つくり手の願いが込められているそうだ。

祈り=願い。ここで繋がり腑(ふ)に落ちる。

ピンブローチの土台となっているのは、螺鈿細工にも用いられる蝶貝(ちょうがい<マザー・オブ・パール>)。カットした貝殻の上に、漆、金・銀蒔絵や、夜光貝の螺鈿を施す。加賀蒔絵といえば、絢爛(けんらん)な箱物を思い浮かべる人も多いかもしれないが、この世界はとても小さい。小さいけれど強い。その限られた世界の中には、職人が受け継ぐあらゆる技術と、それを未来へ伝えたいという願いがぎゅっと詰まっている。

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「蒔絵のピンブローチ」 加賀の蒔絵は、三代加賀藩主・前田利常が、京都や江戸から名工を招いて技術の向上を図り発展したといわれている。「漆工芸大下香仙工房」の創業は明治27(1894)年。確かな技術を基に、新たな使い手を求めて立ち上がったブランドは、職人のしなやかな感性を柔軟にとり入れたものづくりが魅力。「Cat Face」「Rabbit」各2万9160円、「Doll Face」2万5920円。「Classic Ko」http://www.classic-ko.jp/

 

 

文、セレクト=つるやももこ 撮影=尾嶝 太

つるや・ももこ 旅と人をテーマに取材・編集・執筆を手がける。10 月にこころとからだを旅するウェブマガジン『Ho ̄.ailona (ホーアイロナ)』を創刊。http://www.hoa ilona.com/、インスタグラム@ho.ailona

 

 

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