新 手仕事ニッポン15

「茶筒司」の珈琲缶 (京都府・京都市)

時代に寄り添う道具。  

手になじむ。いい道具の代名詞といえる言葉から想像するのは、握ったり撫(な) でたりする、たとえば万年筆や包丁、あるいは湯のみや酒器や椀(わん) のようなもの。「開化堂」の茶筒を手にした時、初めてなのに懐かしい感じがした。金属のひんやりとした見た目とは裏腹に、どこか温(ぬく) もりのようなものがある。滑らかで気持ちよく、触れば触るほど手の温度がじわりと伝わる。何より、単なる〝容(い) れ物〝ではない魅力がその佇まいに表れていた。

 文明開化のさなかに創業したので「開化堂」。英国から入ってきた最先端の素材、ブリキにいち早く注目した初代がつくった茶筒は、当初の献上品から、やがて京都という土地柄か、茶葉専門店の保存容器として重宝されるようになる。湿気を通さず香りを保つために、とにかく密閉することにこだわったものづくりは、コンマ以下の調整が必須、それには職人の手の感覚が頼り。1枚の金属板を切り出すことから始まって、130以上の工程を経て7つのパーツを組み合わせると聞いて驚いた。本体に蓋(ふた) を乗せると、すーっと、自然の力で閉まる。静かに、ぴたりと落ち着いた様を見て気づく。機械に頼らない、数字で測れない人間の手の精巧さが、この道具にキリッとした、それでいて温かい佇まいを与えているのだ。

 「珈琲缶」は、茶筒ならぬ珈琲筒として生まれた品である。時代を経ても技術は変わらないが、生活の変化によって用途を変えていく道具。文明開化に始まった老舗(しにせ) の、時代に添う柔らかな感性を感じる。

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 「珈琲缶」 茶筒司「開化堂」の創業は明治8年。英国から輸入され、今でいうステンレスのような万能金属として注目されていたブリキ素材を使い、初代が茶筒をつくる技術を開発。手にして日々触ることで、金属の表面が渋くなめらかに経年変化していく。素材はブリキのほかに銅、真鍮(しんちゅう)の3種類を使っている。珈琲缶のサイズは2種。写真は標準的なサイズの珈琲豆1袋・200gがちょうど入る大きさ。ブリキ珈琲缶200g(スプーン付き)1万9980円。計量スプーンは中蓋の上に収まる。http://www.kaikado.jp/

 

 

文、セレクト=つるやももこ 撮影=尾嶝 太

つるや・ももこ  旅・道具・暮らしと人をテーマに執筆を行なう。2018年3月、佐賀県と長崎県の観光情報誌『SとN』第2号を発行。3月10日には、京都にてトークショーが開催されます。