新 手仕事ニッポン9

「ジャカード刺繍」のネックレス  (群馬県・桐生市)

心豊かに、軽やかに。

  小さな丸い玉が連なったネックレスに出会った。真珠のようにも見えたそれは、繊細な絹の糸玉でできているのだった。つけ衿のようなかたちが愛らしく、クルーネックのシンプルなニットやワンピースに合わせたら素敵だろうな、と、すぐにコーディネートが頭に浮かんでうきうきとした。 

 手に取ると、とっても軽い! ひと粒を指でつまんでみたら、ぎゅっと詰まった感じがして硬く、でも弾力もある。まるで本物の蚕繭を触っているような感触だ。目を凝らすと、糸は中心から放射状に、かがり手まりのような文様を描き、その玉と玉を銀色の糸がつないでいる。聞けば、ジャカード刺繍という技法を使ってつくられているそう。刺繍といえば普通は土台となる布に刺すものだけれど、こちらは土台はなく、糸単体で形づくられている。針の刺し方(順序・動き)、糸の密度を計算することで、刺繍そのものを立体的に仕上げる。つまりは解くと1本の糸に戻るということ。機械の特徴を知り尽くしているからこそ生まれた刺繍のジュエリーなのだ。

  美しいものを見たときにため息が出るわけは、そのものが内側に秘めている力を感じるからだと思う。その力というのは、完成に至るまでに積み重ねられる過程、人が知恵を絞り手を尽くす時間である。そうして、宿る力は情緒となって、わたしたちの心をくすぐる。 胸元にネックレスを当ててみる。うきうきはやがてどきどきに変わる。ああ、そうしてお財布の紐も、するすると解けてしまう。

 ----------------------------------------------------------------------------------

「Sphere necklace」 

古くから織物で栄えた桐生市で明治時代に創業し、細やかな日本の織物技術を礎に、帯織物業から刺繍業へ転じた「笠盛」。素材・デザイン・技術においてゼロから新しいものづくりをしようと、ジャカード刺繍機という大型の刺繍ミシン機を使ってつくるアクセサリーを、「000(トリプル・オゥ)」というラインで展開。シルクタイプ2万1600円、キュプラタイプ1万3500円。「TRIPLE O」www.000-triple.com

 

文、セレクト=つるやももこ 撮影=尾嶝 太

つるや・ももこ 旅・道具・暮らしと人をテーマに執筆を行なう。北九州市発行のフリーペーパー『雲のうえ』は今年で創刊10周年。11 月発行の25号は関門海峡を特集。海の仕事や海のそばの暮らしをレポートしています。