新 手仕事ニッポン8

つまみ細工 のかんざし (東京都・台東区)

 

記憶を呼び覚ます愛らしさ。

  かわいい! 思いのほか高く出た自分の声にハッとする。そして、色とりどりのつまみ細工の花々を眺めるほどに、そこはかとない切なさと、胸がキュンとなる記憶がよみがえる。かんざしを髪に挿し、ぽっくり下駄(げた)を履いて母に手を引かれて歩いた記憶はすでにないが、着物同様その存在はきっと、私たち日本人のDNAに刻まれている。それはきらびやかな宝石への憧れとは別の、純朴な愛らしさへの思慕だ。

 つまみ細工は、薄絹の羽二重や縮緬(ちりめん)を小さな正方形に切って、ピンセットでつまんで畳み、一枚一枚貼り合わせたもの。それを組み合わせてつくられるつまみかんざしは、季節の花、波に千鳥、藤棚、柳につばめなど、物語を持つ立体的な絵画のようだ。だが江戸時代からの技を受け継ぐ職人は、今、全国に10人ほどしか残っていない。東京の浅草橋に店を構える「つまみ堂」は、そんな現状をどうにか変えたい一心で、創業77年の髪飾りメーカーの老舗(しにせ)代表者が開いた店。二代目店主は、幼いころから父についてつまみかんざしの職人の仕事を見て育ち、仕事の効率を追求しながらも、高い芸術性を兼ね備えた世界を愛してきた人だ。店には、つまみ細工の一輪一輪がパーツとして並び、それを組み合わせてかんざしやブローチやピアスなどをつくることができる。日々、店にはさまざまな年代の女性が訪れ、より深く学びたい人のためにワークショップも行なう。ここから未来の職人が生まれることを願ってやまない。

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「つまみ細工」のかんざし 

舞妓(まいこ)さんの髪飾りなど絢爛(けんらん)豪華な装飾品、着物姿の髪を彩る細工小物として愛される。職人の家内工業により受け継がれてきたため、職人は各地に点在。東京都指定の伝統工芸品となっている。写真のかんざしは、三つのパーツを組み合わせてつくったもの。細工は色や大きさもさまざまで一つ300円〜。材料の販売やワークショップも開催。「つまみ堂」tsumami-do.com/

文、セレクト=つるやももこ 撮影=尾嶝 太

 

つるや・ももこ 旅・道具・暮らしと人をテーマに執筆を行なう。編集を手がける伏見や宇治など京都南部の文化を伝える冊子『百(もも)』2号が発行、配布中。京の水をテーマに取材をしています。