「樺細工」の箸置き (秋田県・仙北市角館町)
感性のかたち。
丸裸だった道端の桜や街路樹の枝先に春の兆しを見つけると、毎年同じように心がほどけて弾むから不思議だ。日々の細々としたことに追われていても、おのれのわずかな感性がそうして生きていたことにホッとする。4種類の木地を使って樺細工の職人がつくる箸置きを並べながら思う。こちらは芽吹きの若葉か、咲き誇る桜の花びらか。
樺細工は、主に茶筒の技術として伝わってきた。これは材料となる山桜の樹皮が湿気を吸収するのに長(た)けていたからだ。書状や筆をしまう文箱(ふばこ)や小引き出しがつくられてきたのも理に適(かな)ったこと。もちろん、箸置きにしても厭(いと)わない。
樺細工の箸置きは、単にそれだけではもったいないと感じさせる佇(たたず)まいを有している。優秀な道具の証(あか)しは、見立てるひとの感性によって、いかようにも〝かたち〞=使い道を変えられること。優しいカーブを描く木の葉には、摘み草や花枝を乗せてささやかな室礼(しつらい)にしてもいいし、薬味や塩を盛る器に使って、料理の脇に添えてもいいな、と、あれこれと想像を膨らませるだけでも楽しい。
しかるべき方法で樹皮を採取した山桜は、決して枯れることはなく、剝がした樹皮もやがて再生すると聞いた。しかし年々その数は減り、希少になっているのも事実。くるみや楓(かえで)などの新素材を、樺(山桜)と組み合わせることが、伝統技術を受け継ぐことになる。つくり手もまた、しなやかな感性で素材と向き合っているのだ。
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「樺細工の箸置き」
江戸時代、下級武士の手内職として技術が広まったとされる樺細工。藩主の庇護(ひご)の下で技術は磨かれ、明治以降は茶筒や文箱などの「用の美」が人気を博し、現在に至る。1851年創業の「藤木伝四郎商店」では新しい素材に着目し、洋テーブルにも合う製品をつくり続けている。「葉枝おき(5個入り)」(無地皮・くるみ・さくら・かえで)4644円。「藤木伝四郎商店」http://denshiro.jp/
文、セレクト=つるやももこ 撮影=尾嶝 太
つるや・ももこ 旅・道具・暮らしと人をテーマに執筆を行なう。2016年の初出張はハワイ。一度見てみたかった冬のノースショアの波を眺めながら今年の抱負を誓い、5年ぶりにビキニを着ました。