「組子」のキット
ほの暗い、という言葉がある。辞書を引くと「薄暗い」も同義語とあるが、前者の言葉は響きが美しく、その様子を好ましいと思う気持ちがうまく表現されている。あまりにも有名な随筆『陰翳礼讃(いんえいらいさん)』には、この「陰翳」=「ほの暗さ」の中に生きる日本の伝統美が語られているが、その真髄こそ、日本の住まいの様式に凝縮されているように思う。
室内木工芸のひとつ、組子細工は、書院障子の桟や欄間など、光と風のわずかな通り道に配されてきた、まさに陰翳を彩るための装飾技法だ。飛鳥時代にすでに建築に採り入れられていたとされ、室町時代に生まれた書院造りの広まりとともに発展し、指物師と呼ばれる職人の手によっていままで受け継がれてきた。麻の葉、亀甲、桜、七宝などの伝統文様を、くぎを使わずに、細かく刻んだ木片を組み合わせてつくる。精密な技は高嶺(たかねの花であり、組子細工で飾ることは、家の誉れと言われてきた。
いま、障子や欄間は少なくなった。けれども技術の美しさは、私たちの目を楽しませ、憧れのような気持ちをかき立ててくれる。そして複雑な仕組みを知りたいと、この手で触ってみたいと思わせる。だから、キットになっている組子があると聞いて思わず手に入れた。たった2種類のパーツだが、木片の凹凸をパチンパチンと組み合わせることで、大小さまざまな形の井桁文様が出来上がっていく。 明かりをつけることも忘れ、夢中になる冬の夜なのであった。
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「ilono*tavi corocoro」「組子キット」 室町時代、書院造りとともに確立した日本建築独特の装飾技法である組子。武家の住居に採り入れられて発展、一般化したとされている。指物師がその技術を習得するまでに最低10年は必要とされ、カンナやノミを使いこなし、1000分の1㎜単位で木材を削って組み上げていく。文様の組み合わせは数百種にも及ぶ。「組子キット」は消えつつある伝統技術を、楽しみながら味わってほしいと開発された。出来上がったものは、コースターにしたり、壁掛けにしても。「組子キット」2484円。「和佐美」☎0256-32-2234 http://www.wasabijapan.co.jp/
文、セレクト=つるやももこ 撮影=尾嶝 太
つるや・ももこ 1975年生まれ。女子美術大学デザイン学科卒。旅・道具・暮らしと人をテーマに執筆。15年2月にリリースの地域密着型フリーペーパー『雲のうえ』取材で九州うどん行脚の日々。