”悔しがる力”こそ強さの源
14歳2カ月の最年少プロ棋士記録更新からはじまり、最年少記録を次々と塗り替えてきた藤井聡太竜王。将棋界の最高位と言われるタイトル「竜王」の獲得から約1週間後の11月21日(日)に行われた「将棋日本シリーズ JTプロ公式戦」決勝戦である東京大会の公開対局に、たくさんの将棋ファンの前に姿を見せた。棋士の対局を観客が見守る公開対局という形式で行われる数少ない公式戦の公開対局の一つだ。
対局が行われた会場では、直前まで小学生以下の子供が参加できる将棋大会「テーブルマークこども大会」が行われていたこともあり、観客には親子連れが多く、和やかな雰囲気のなか戦いは始まった。対戦の相手は、1週間前の竜王戦でも戦ったばかりの豊島将之九段。
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藤井竜王は指す前に脇に置いてある水分を一口飲むという、いつものルーティンで対局が始まった。会場は暗転し、盤上だけに照明があたり、観客は静かに二人の対局を見守る。前傾姿勢で盤上に集中する両者。お互いの手が分かっているのか手がどんどん進んでいった。
開始から1時間半、藤井竜王は苦しそうな表情でうなだれたり、天井を見上げたりするしぐさが増えてきた。会場で解説をしている棋士の阿久津主税さんの見立てによると、勝負の流れは豊島九段に来ているということだ。千人を超える観客が見守る中、表情や姿勢に苦しい心のうちがあらわれているようだった。体の動きも、表情の動きもなく、盤に向かい続ける豊島九段とは対照的だった。
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現在発売中の『プレジデントファミリー別冊 天才の育て方』の「泣き虫少年が天才になった道のり」記事では、藤井竜王の子供時代の様子を知る人や、母校の名古屋大学教育学部附属中学高等学校の教師にも取材して、その素顔に迫っている。その取材先の一人・5歳の頃から通っていたという「ふみもと将棋教室」の代表・文本力雄さんによると「心にマグマのような荒々しさがある。負けず嫌いのランキングにあれば間違いなく名人クラス」という。
最後の望みをかけて藤井竜王から豊島九段の王への王手をかける。王手が9回続いたあと、藤井竜王投了。豊島九段のJT杯優勝となった。「負けました」のしるしに頭を下げたあとは苦しそうな表情から一転、ときおり笑顔を見せる。
対局が終わった後に行われたインタビューでは、舞台上見上げて指先を動かす。壇上にいるにもかかわらず、心ここにあらずといった様子で、指したばかりの将棋を脳内にある将棋盤で振り返り、今後同じような場面が出てきたらどのように戦えばいいのかを考えているようだった。
戦いに敗れた後もすぐに気持ちを切り替え、未来に向かっていく様子に、底なしの探求心を感じた。
プロの将棋が観戦できる!
「将棋日本シリーズ JTプロ公式戦/テーブルマークこども大会」
九州から四国、北海道までを会場にして、毎年開催中。午前中から行われる、テーブルマークこども大会は、プロを目指している子供から将棋の初心者の子供まで楽しめる仕組みになっている。子供大会終了後には、第一線で活躍中の将棋の棋士の公開対局である将棋日本シリーズ JTプロ公式戦が行われる。子供同士で将棋を指したり、プロ同士の真剣勝負を観戦ができたりするいい機会なのでぜひ足を運んでみては。
『プレジデントファミリー別冊 天才の育て方』(1320円)
藤井聡太棋士の「集中力」や「思考力」はどのように養われてきたのか。『プレジデントファミリー』誌に掲載した藤井さんの取材記事など、子育てや家庭教育のヒントとなる記事を多数収録。藤井三冠以外にも、これまで教育雑誌プレジデントFamilyで取材してきた各界の著名人や、数学検定やスポーツ、芸能といった分野で活躍する子供の家庭を取材した記事を収録。活躍する子の才能が花開いた家の工夫を紹介しています。