受験前日まで部活動!なのに開成・灘合格

徳島出身トランペット少年の受験物語

トランペットを練習する教寛くん
50字文を練習したノート

「うちは勉強時間より、トランペットの練習時間の方が長かったかもしれません。学校のブラスバンド部に所属していて、開成受験前日でさえ塾の前日特訓より演奏会を優先したくらいですから」

開成中学の合格発表でお会いした佐々木教寛くんの母 美智子さんは、嬉し涙をぬぐいながらそう語った。アンケートに書かれた住所は「徳島県」。あまり中学受験が盛んではない地域から、しかもトランペットの練習もしながら、灘・開成・東大寺など名門中学の合格を掴んだ。

 「塾に通い始めたのは、小学5年生から。中学受験をさせる予定ではあったのですが、ブラスバンドで手一杯で、4年生まではもっぱら自宅学習と年数回の模試だけでした。自宅で『トップクラス問題集』を解かせたり、理社の『自由自在』を読んだりしていました」

小学生とはいえ、教寛くんの所属していたブラスバンド部は、マーチングバンドで県内トップレベルの名門チーム。公立の小学校だが、教寛くんが小学校1年生のときに四国のブラスバンド界で有名な先生が赴任したことで、練習の質は飛躍的に向上した。

「一生懸命やっているし、教寛も受験と両立したいと言ったので、親としては全力で応援することにしたのですが、何せ練習量が多くて……」

部活動と中学受験の両立について家族で話し合った際には、教寛くんも覚悟を決めていたようだ。

小4後半の模試では、得意な算数で点を稼ぎ、偏差値は4教科で60越え。しかし、理科と社会は時間的に勉強ができず点数にばらつきがあった。

「大好きなブラスバンドは辞めない。でも、塾に行かないと難しい問題が解けないし、理科・社会のカバーができない。家で勉強していても、やはり勉強範囲にムラができてしまうから、塾には行きたい」

部活の練習は週6日 平日:7時半~8時10分、放課後~17時まで。土曜日:8時半~12時まで。

受験の天王山である夏休みの内、33日間は練習日。マーチングバンドは動きながら演奏するので、体力的な消耗も激しい。

「正直、時間がまったくありませんでした。家庭学習の時間がないどころではなく、ブラスバンドの練習で夏期講習に1時間遅れていくレベル。クーラーのない体育館で練習してから、塾に行ったので、体力面でもへとへとでした」

夏休み明けには成績も下がり、塾の先生から「圧倒的に勉強時間が足りない」と指摘された。この状態で、9月~11月はブラスバンドの大会続き。車にトランペットと衣装、塾のバッグを積み、家族で大会と塾を回る日々だった。

「時間がなかったので、とにかく集中力が勝負でした。学校の10分休みに灘の算数の問題を1題解いたり、朝練前に漢字と計算問題の練習で15分間勉強をしたり。理社は家で勉強する時間が取れないので、塾の授業中に確実に覚えきることを目標にしていました」

テストで間違えた箇所は必ずその日のうちに父と復習。単純ミスか理解できていないのかを判別し、理解できていない問題だけに取り組むことで、時間を節約した。小学生はまだ、時間の感覚が成熟していないため、今日一日の流れ、一週間の流れといった何をするのか、どんな忙しさなのかをあらかじめ美智子さんと教寛くんで話し合っていたという。

模試での偏差値は順調に推移し、算数・理科が70前後、社会も60~65まで伸びていた。

「最後まで苦戦したのは、国語でした。9月の時点で偏差値がガクッと下がり、56まで落ちました。残り4カ月。そこでプレジデントファミリーに掲載されていた”50字表現文”でした。(2010年5月号掲載)残りの4カ月で国語が飛躍的に伸びるとは思えなかったのですが、誌面に載っていた50字文の表現方法を丸暗記できれば国語力が付くと信じて取り組みました」

美智子さんは他にも時間がない教寛くんのため、短時間で語彙の補充ができるよう語彙カードを作成したり、記述問題の採点を行うなど、サポートに徹した。その結果、国語も偏差値が70近くになり、得点源になるほどまで学力が伸びた。

「受験の前日までブラスバンドは続けました。ここまで両立してきたからこそ頑張れたので、いきなりやめる不安もありましたし、普段のリズムを崩さないようにしました」

無事、受験を終えた佐々木さん親子。現在、教寛くんは徳島県内の国立大学付属中に通っている。

「中学から一人暮らしをさせることに非常に悩んで。高校でまた、灘・開成クラスを狙いたいと言っています」

最後にこれから受験する家庭にメッセージをいただいた。

「親と子供で同じものに熱中できたこの数年間は、非常に幸せでした。部活をしていること、地方にいることを言い訳にせず、高い目標を掲げて子供の歩幅を見極めながら、共に努力し続けることが大事だと思います」

 

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