反抗や悪態、成績の急降下がシグナル
子供の中学受験を控える親が、ゾッとさせられる事件が起きた。
9月上旬に東京都大田区で、「勉強が大変で疲れている。眠れない」などと友達に漏らしていたという小学6年生の女の子が、女子同級生と一緒にマンションの高層階から飛び降りたのだ。警視庁によると、死亡が確認された2人の衣服からそれぞれ遺書が発見されたという。その後の報道はとくになく、2人とも中学受験を控えていたものの、今回の件が受験を苦にしたものかどうかは、よくわからない。
ただ、受験生の子を持つ親にとっては、他人ごとと思えない事件だったのではないだろうか。
事件にまで至らないにしても、中学受験を前に、子供が過度なストレスに苦しむことはさけたい。
受験生の親がこの時期に注意すべきことを、2回に分けて、2人の専門家に聞いた。
受験生専門の心療内科「本郷赤門前クリニック」の吉田たかよし院長は、受験のストレスを継続して受けることで起こるうつ病、「受験うつ」が、小学校高学年にも増えていると話す。
「とくに夏休み後のこの時期に、受験うつになる子が多いですね。夏期講習の集中的な学習のストレスに加え、徐々に受験が近づくことによる緊張感が子供たちを取り巻く環境をよりストレスフルなものにします」
今回の事件のように11、12歳の女の子は、物事の考え方や感じ方が、親が思っている以上に敏感で、男の子に比べ3歳ほど大人びているとも吉田氏は指摘する。
「同年齢の男の子は、『合格すればいいんだ』と無邪気な子も多いのですが、女の子は周囲の視線を意識しすぎる余り、志望校に合格しないと私も親も恥をかいてしまうと、自分を追い込んでしまいやすい。心が発達しているがゆえに、不安に取りつかれやすいのです」
親の注意が必要なのは、子供の受験うつは大人のうつと表れ方が違う点だと吉田氏は強調する。
「子供のうつの場合、大人のうつ病のようにふさぎ込む子は少数派です。表れ方として多いのが、親への反抗や悪態など。成績の急降下などもお子さんの心のシグナルです。子供は自覚できないので、親が子供の様子に変化がないか見守ってやることが必要です」
受験のストレスで受診に来た子供に対して、吉田氏はまず手や腕などを調べるという。爪を噛みすぎてボロボロにしていたり、人目につきにくい肘の内側などをシャーペンで突いたりした跡があれば、過度なストレスに苦しんでいる可能性が高いからだという。
「受験期の子供であっても、睡眠時間は8時間を確保してあげてください。ストレス解消のため、散歩などの有酸素運動をさせたり、1日30分に限定して好きなゲームで遊ばせたりするなどある程度子供に自由な時間を与えるのも大事です」
わが子の将来のための中学受験で、悲劇を生むようなことがあってはならない。大事な時期だからこそ、子供の様子をしっかり見守る必要があるだろう。
荒川 龍=文