アクティブラーニングで、アクティブラーニング用のイスを開発!?
「机についているLEDライトは何のためにあるのですか?」
「図書館などでもそうですが、天井の蛍光灯だけでは手元が暗いことがあります。そのために手元を照らす照明をつけています」
「なぜ、机が2つに分かれているのですか?」
「移動式のイスに机がついている場合、右側についているものが多いです。でも、左利きの人には使いにくいはず。右と左にあればどちらでも使えます。さらに両方をくっつけて使えば大きく使うこともできます」
スーツ姿の男性たちの質問に、しっかりとした口調で答えているのは、東京都千代田区にある大妻中学高等学校の理化部のメンバーたち。
これは、同校で行われた、愛知県に本社があるオフィスや学校施設の家具・備品を製造販売する株式会社ノーリツイスとのコラボレーション授業の様子だ。2016年6月から17年4月まで、7回にわたって放課後の課外活動の時間を使って行われた。スーツ姿の男性たちは同社社員である。
お題は「アクティブラーニング用のイス」の商品企画を一緒に考えるというもの。
「学校での学びが、これまでのようにじっと座って先生の話を聞くかたちから、ディベートやプレゼンなど生徒が主体的に学ぶかたちにかわっていきます。すると求められるイスの姿も変わってくるのではないか。そこで、学ぶ当事者でもある中学生・高校生とコラボレーションをして新しいイスの商品企画を考えたいと思いました」
そう言うのはノーリツイス営業部の宮本晃成さん。今回、先生役として生徒たちの学びを導いてきた。普段は営業マンとして活躍する宮本さんだが、実は教員免許も持っている「教え上手」でもある。
17年4月、最終回の授業では、いよいよノーリツイス側が候補作品を1つ決める。前回の授業で6つの班ごとに自分たちが考えた新商品をプレゼンテーションを行った。それを持ち帰った同社内での検討結果が発表されるのだ。
「どの作品もとてもよかったです」
宮本さんが口を開いた。そして発表。選ばれたのは、1班の作品「Flu」だった。
商品名・色名・コンセプトともにオリジナリティあふれている、商品企画としてよく練られている、との総評。「イスも変われば人も変わる」というキャッチコピーがつけられたこのイス、資料が多いときは机の大きさを広げられたり、机の高さも調節可能、シートの色バリエーションも多い、そんな、使う人ひとりひとりに合わせて使ってほしいという思いがこめられた作品だ。
高校2年生、理化部部長の栗原真希さんは言う。
「『flu』という名前は、大妻の『妻』を意味するスウェーデン語から付けました。大妻という女子校ならではの女性らしい感性もアピールできたらと思っています。またシートのカラーバリエーションにあやめ色、みかん色、若草色といった色を使ったのは、リラックスして自由に発言したり伸び伸びと授業に取り組めるように、目に優しくて空間に溶け込みやすい色にしたかったからです。色名から、日本文化も伝えられると思います」
実際に授業を日々受けている体験からの工夫を語ってくれたのは同じく高校2年の戸田百香さんだ。
「女子は使うペンが多いんです。普段の授業でもペンを落とすことがありますが、移動式のイスならますますペンを落とすと思います。だからペンを収納する引き出しをつけました。また、机を上下できるのは、身長や好みなど、人によって勉強しやすい高さが違うことに気が付いたので、調節できたらいいなと思いました。自分ならどんなイスがいいか、というだけでなくて、使う人のことを考えて企画しました」
これから、「flu」のアイデアをもとに、ノーリツイス社内で製品化へ向けた開発が行われるという。7月には、同社の工場へ理化部の生徒たちは招待されるそうだ。
同社の青木照護社長は「弊社としても生徒さんと一緒に商品開発をするというのははじめてだったので不安もありましたが、いい意味で裏切られました。『アクティブラーニングを通して、アクティブラーニング用のイスを開発する』というチャレンジでしたが、私たちの予想以上に新鮮なアイデアを多くいただきました。社員たちにもいい刺激になったと思います」と語る。
宮本さんは、選ばれた作品以外にも、さまざまなアイデアが新商品のヒントになる、と言う。
「社内で話題になったのは6班が考えてくれた、モコモコした柔らかい素材で猫の形をした『アニマルチェア』。幼稚園や小学校低学年用の企画ですが、こういう発想はプロからはなかなかでてきません。他の作品も、机が分割する仕掛けや、素材へのこだわり、秀逸なキャッチコピーなど若い感性ならではのアイデアがいっぱいありました」
栗原さんは今から工場見学を楽しみにしているという。
「企業の方とご一緒して製品を開発することに関われるなんてとても貴重な体験だと思っています。実際にイスがつくられている様子もぜひ見たいです。あと、本物の会社で行われている大人の会議も見てみたい!」
一方、「こういう体験って、入試の推薦とかでもアピールできそう!」と本音を聞かせてくれた子もいた。実際、これからの入試では、これまでのような「知識の定着をみる」試験から「様々な体験を経て主体的に多様な人と一緒に学ぶ力」が見られるようになる。今回のコラボレーションのような経験は、きっと彼女たちの成長につながるだろう。
どんなイスができあがるのか、今から楽しみだ。
(萩原美寛=撮影)